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「すり合わせ」の文化と、ブランドに息づく思想の体現 — 常にお客様の期待の先を行く進化を目指した、日独の自動車哲学の融合

マツダヨーロッパ 副社長、R&Dセンター所長 廣瀬 一郎

本稿は2014年1月配信のDJWニュースレターに掲載されたものです

2014-01-04, 13:31

マツダヨーロッパR&DセンターGmbHは、1990年、フランクフルト北西部オーバーウルゼルに開所し、以来、マツダ車のヨーロッパ開発拠点として将来技術の企画調査から、新型車のデザイン、市場適合開発、認証取得に至る一連の研究開発を23年以上に渡り担って参りました。

欧州開発拠点の名を冠してはおりますが、マツダはここヨーロッパをグローバル開発の基幹基地として位置付けております。何故ならば、車文化の先進地であり、かつ、車の基本性能への要求レベルが最も高いこの地で、進化発展する顧客の価値観をいち早く捉え超え続けていく、商品の企画力、それを具現化する技術開発力を発揮し続けていくことが、激烈な競争環境で凌ぎを削り続ける完成車メーカー群に於ける、唯一の存在意義であると信じているからであります。

私自身この地で、お客様が「車はかく有るべし」と期待する水準、それに対するメーカー側の対応水準、それが一致する「折り合い点」の向上が著しく、それを先導する欧州メイクの一貫した動きを肌で感じており、日本メイクは、もっとシャープに特徴を示し、そこでの「折り合い点」を高めて行かなければ、存在意義は薄まるばかりだと、強く危機感を持っております。 ドイツメイクはプレミアム商品でお客様と揺ぎ無い繋がりを築き、韓国メイクはドイツ車的外観とお買い得感で市場浸透を続け、反動で撤退に至るところが出るなど、淘汰が生じているのは皆様ご承知の通りです。

とは言えグローバルでは、日本とドイツは依然、自動車産業をリードする二つの柱です。私は、両国のメイクが共創の考え方で影響しあい、互いの異なる強みを活かし合えば、それぞれ世界に揺るぎ無いポジションが固められると信じており、もっと活発な交流が必要であると考えております。

日本メイクの強みのひとつは「すり合わせ開発」で、「メイド・バイ・ジャパン」の競争力の根源の一つとされてきました。すり合わせとは、二つのものを強く摺り合わせることで、尖がった部分、凹んだ部分を埋め合わせ、両者をピタリと沿わせることです。

自動車は、ボディ、足回り、エンジンやトランスミッション、それらを制御する電子デバイスなど、数百のシステムの組合わせによって構成されていますが、それぞれを単純に連結しただけでは機能の凸凹が生じ、狙い通りに働かなかったり、大幅に能力が低下したりします。そのため、これら総てのシステム間で相互連携が出来るよう、インターフェースを整えておかなければなりません。こう言った背景が有り、各システムの開発時、互いに悪影響を及ぼす領域の除去、不足部分の補完を同時並行で行なう「すりあわせ開発」が日本で生まれ定着しました。 この考えで開発を進めることで、これまで最小の開発資源と最短の開発期間、合理的コストで新型車が開発できました。個人より全体の成功を重んじる日本人の性格、もっと言えば「自分のせいで仕事が停滞する」、「人に迷惑を掛ける」事を恥と考える国民性が、すりあわせ開発の発達に大きく寄与してきたのだと考えています。

 一方でドイツメイク、ことプレミアムと呼ばれるBMW, Mercedes, Audi の特徴は、確固とした特徴、人格とも言える車の個性を体現することに重きを置く、思想の明確なクルマ作りが多数派であるということです。それぞれ「駆け抜ける喜び」「最善か無か」「先進」など、個有の哲学に近づくよう、後戻り無い前進を続けているようです。たとえ開発資源が多くかかっても、その特徴ある性格を磨き続け、常にお客様の期待の上を行く事が存在意義だと断定し、そこに最大の価値を置いていると思えます。車の性能が真に進化すれば、それを使うお客様の感性は磨かれ、次なる欲求が湧き上がる。作り手はそれを上回る進化を提供し、お客様の感性は更に磨かれ次の高みを求める。この繰り返しが顧客と作り手の絆を深めて行く。これが当たり前に続けられて来たのが欧州マーケットであり、深められた絆が、ブランドの意味と価値なのだということが、この地で車に接し確信にかわって来ました。お客様の感性を高めれば、次なる開発のハードルは高くなりますが嬉しい悲鳴であり、この連鎖が互いに離れがたい関係を強め、ブランド発展をさせているのでしょう。

日本の若者のクルマ離れは、勿論、酷い交通環境など外的要因は有りますが、こういった絆作りが希薄になっていることに一因が有ると思えてなりません。

ドイツ勢は、今後もこれを一貫して続けるでしょう。日本は、すりあわせ開発の進化、発展により、顧客にとって離れがたい稀有な人格と、高い基本を備えた商品造りを両立し、Japan-Premiumとでも言うべき位置を固めるべきだと考えています。

初期のすり合わせ開発は、問題の無い商品、当たり前に機能し壊れない頑強な製品を、短期に省資源で生み出すのは得意でしたが、それだけでは唯一無二の存在は難しく、日本のすり合わせ開発も、顧客の価値観を越える商品を生み出すべく進化を遂げてきました。

弊社においては「モノ造り革新」がそれであり、設計や生産、購買などの部署が大胆に発想を転換し、これまでにない自動車の、開発・生産・調達におけるコンカレント開発を可能にしました。 世界一の圧縮比を実現したSKYACTIVエンジンをはじめとするSKYACTIV技術群と、それを採用しトップレベルの競合力を得たCX-5、Mazda6、Mazda3など新型車は、その活動の成果であり、すべてのシステムの同時刷新を、商品競合力の飛躍的向上、開発効率の30%改善と同時に実現した点は、すりあわせ開発の正常進化であると考えます。

進化のポイントは「理想の追及」であり、各システムの理想機能、理想生産要件を定義し、その実現コンセプトと、それを常に安定して発揮させるメカニズム、及び構造要件を明らかにし、この段階でシステム間の背反解消を完結させておく事でした。両立解が見出せなければ、上位階層に戻りコンセプトを練り直す。総てを満たす解を、生産、調達、開発、一体メンバーで見出すまで、図面化に移行しない。それを領域に優劣を付けず行なう。多元連立方程式の解を解くかの事を、総ての領域で実行したのです。総てを刷新するという自由度があるあるからこそ可能である一方、すりあわせの文化が根付いていなければ、途中で破綻したのではないかと考えています。弊社は、根付いた文化をベースに、更にすりあわせ開発の進化を図り、Japan-Premiumを体現する車作りを進めて参ります。

こうして、日本メイク、ドイツメイクの特徴を並べてみると、互いの強みは、仕組みと思考であり、領域が真正面からは競合していない事に気付きます。このことは、両者が強みを互いに取り込めば、更なる車作りの技術や方法の進化を遂げさせ、グローバルでの存在感と影響力を確かなものにしていく助けになることだと、私には思えます。

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