ニュース & インフォメーション

2022年8月1日以降に施行の雇用契約における新たな要件

改訂雇用条件証明法がもたらす雇用者にとっての注意点

DJW会員ガンテフューラー会計・税務・法律事務所からのお知らせ

2022-08-15, 10:50

2022年6月23日に改訂雇用条件証明法が可決され、雇用条件の透明性及び予見可能性に関するEU指令(指令2019/1152/EU – 以下「労働条件指令」)がドイツで国内法化されました。改訂された雇用条件証明法(Nachweisgesetz – 以下「証明法」)は2022年8月1日に施行されました。この改訂雇用条件証明法について、DJW会員のガンテフューラー会計・税務・法律事務所より記事をいただいておりますので、ご覧ください。

違反した場合は、各違反につき、2,000ユーロ以下の過料リスク

この新法の影響は、雇用契約の作成において広範囲に及びます。従って、新証明法が要求する記載が契約書のひな型に適合しているかを確かめるため、雇用者は既存の雇用契約書のひな型の見直し及び新法の要件を満たすための修正を早急に行う必要があります。特に注意しなければならないのは、新証明法に違反した場合は、従来とは異なり、秩序違反行為になり過料の対象になり得るということです。ワーストケースとして、各違反につき2,000ユーロ以下の過料に課せられる可能性があります。このリスクは、契約書のひな型を修正することで、最小化することができます。

新法はどの雇用関係に適用されるのか?

新証明法は、2022年8月1日以降に開始される雇用関係に適用されます。2022年8月1日までに雇用契約が締結された場合でも、契約の開始が同日以降の場合は新法が適用になります。既存の雇用契約においても、新証明法により記載が義務付けられる契約条項を変更する場合は、新法が適用されます。

さらに、既存の雇用関係で、契約内容を変更する予定がない場合においても、従業員からの要請があれば、雇用者は主要な雇用条件を書面で提供しなければなりません。

2022年8月1日施行の主な変更点

雇用者に課せられる雇用条件証明の義務(雇用条件を雇用契約書または別途書面にて記載する義務)がとりわけ以下の点にも適用されることになりました。

  • 報酬の分野では、給与の金額、構成(時間外手当、特別手当、賞与等を含む)等。これらは、それぞれ個別に記載しなければなりません。
  • また、支払期限支払方法も記載する必要があります。その旨の取り決めがある場合は、時間外労働を指示することの可能性またその前提条件
  • 有期雇用契約における雇用関係の最終日または予定されている雇用関係の期間、及びその旨の取り決めがある場合は、試用期間の長さ。
  • 取り決めた休憩時間及びシフト制、シフトリズム、シフト変更の前提条件。
  • 呼出労働」(Arbeit auf Abruf)の場合:業務量に応じて業務を遂行すること、報酬を受ける最低時間数、基準日と基準時間によって決まる時間枠、雇用者が労働時間の振り分けを事前通知する期間などに関する合意。
  • 従業員が特定の勤務地のみで勤務しない場合は、当従業員が異なる場所で勤務すること、または、(該当する場合は)勤務地を自由に選択できること
  • 雇用者が従業員に提供する研修の範囲。
  • 企業年金に加入している場合は、企業年金基金の名称と住所(企業年金機関基金がこれらの情報を提供する義務を負っている場合を除く)。
  • 解雇については、今まで記載が必要だった解雇期間に加え、解雇通知を行う際の手続きも記載する必要があります。解雇通知が書面で行われること、および解雇保護訴訟を提訴するための期限を書き留めなければなりません。
  • 従業員が外国で4週間以上継続して勤務する場合:勤務地(国名)、予定勤務期間、出向手当・旅費・宿泊費等についての取り決め、帰国が予定されている場合か否か、帰国の条件等。

証明の形式

証明法の下では、主要な契約条件の証明は、書面によって提供されなければなりません。EUの労働条件指令は、各国の立法者に電子形式での証明を認めても良いと規定していますが、ドイツ証明法においては従来と変わらず電子形式での証明は認められていません。即ち、雇用者は、主要な契約条件を文書化し、それに署名しなければなりません。また、この文書を従業員に手渡す必要があります。従って、雇用契約そのものだけでなく、その後の主要な契約条件の変更(昇給など)も、書面(雇用者の直筆署名入り)で従業員に手渡さなければならないのです。人事ファイルへの記載や従業員とのメールでのやり取りだけでは不十分となります。

期限に関する複雑なシステム

新証明法の定める期限は複雑です。雇用者は、契約当事者の氏名と住所、報酬の構成と金額、合意した労働時間や休憩時間などの情報を含む書面を、遅くとも勤務初日に従業員に手渡さなければなりません。

その他、雇用関係開始日、勤務地、職務内容、その旨の合意がある場合は試用期間、残業の条件などの情報を雇用関係開始後7日間以内に従業員に提供しなければなりません。

休暇の日数、研修を受ける権利、企業年金基金に関する情報、解雇手続きなど、その他の情報の提供義務については、雇用関係の開始から1か月間の期間が適用されます。

雇用関係開始後に主要な契約条件が変更された場合は、原則としてその変更の有効日までに、従業員にその情報を書面で通知しなければなりません。

前述の通り、既存の雇用契約の場合でも、雇用者には従業員の要請に応じて、書面で通知を行う義務があります。雇用者は、原則として、要請を受けてから7日間以内に、主要な契約情報を従業員に書面で手渡さなければなりません。新規雇用契約において1か月間の通知期間が適用される条項(上記参照)に関しては、従業員の要請を受けてからやはり1か月以内に従業員に提供する必要があります。要請から通知までの短い期間を考慮し、従業員の要請に適時に対応するためには、関連する情報シートを事前に準備しておくことが重要になります。

最後に

新証明法では、従来通り、雇用者が主要な契約条件を文書化し、署名して、その書面を従業員に手渡すことが義務付けられています。デジタル化が急速に進む中、書面に固執することは時代遅れであるという印象が否めません。さらに、個々の期限に関する規定は複雑な上、企業の実態に即してないとも言えます。一方で、証明法の違反は秩序違反行為となり、過料の対象となるため、同規則を遵守することは雇用者にとって重要な課題となります。新法の施行により、雇用者は既存の契約書のひな型を確認し、必要な調整を早急に行う必要があります。加えて、従業員からの要請に応じて、既存の契約の主要条件に関する情報シートを適時に用意しておくことが望ましくなります。今後は、主要な契約条件の変更があった場合は、形式、期限を遵守し、従業員にその旨の通知をする義務があることを念頭に置いておく必要があります。

© Unsplash, Scott Graham © Unsplash, Scott Graham

協賛会員