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交通部門における脱炭素化 

エコス・コンサルタント創業者兼代表取締役、DJW理事ヴィルヘルム・メームケン

日本とドイツの共通課題

2018-05-30, 10:50

都市における配送需要の増加や大気汚染は、ドイツや日本での課題となっています。温室効果ガスの5分の1は運輸部門から排出されており、クリーンな駆動技術や個人向け乗り物、公共交通、鉄道交通の革新的なコンセプトなしには、パリ協定で定められた目標の達成は難しいと言わざるをえません。「交通転換(Transport Transition)をいかに実現させてゆくか」というテーマのもと、先日、ドイツで日独環境エネルギーフォーラム(ベルリン)および日独経済フォーラム(ハノーバー)の二つのイベントが開催され、日本とドイツのエキスパートによるディスカッションが行われました。

これらのフォーラムを通じて、電気化は一つの可能性であるものの充電される電気が主に化石燃料由来のものであったならば、根本的な交通転換にはならないという点や、電気自動車の所有者が、夜間に一斉に充電を行った場合には系統への負荷が大きくなり、都市にとって大きな挑戦となることなどが明確にされました。両フォーラムにて、トヨタ、日産、東京電力、旭化成、千代田化工建設、ティッセンクルップ、シーメンスなどの企業を交えてのディスカッションを通じて私が受け止めたメッセージは、「系統に多大な負荷をかけずにグリーン燃料をより増やしてゆくためには、水素は大きな役割を担う」ということです。

水素という選択肢

国立水素・燃料電池技術機構(NOW)のクラウス・ボンホフ理事長は、「電気か水素か」という二者選択ではないことに触れ、電気自動車と燃料電池車は共に開発が推進されてゆくべきであり、どちらか一つに偏らせることは交通システム全体にとっての解決策とはならないことを強調されています。燃料電池車と電気自動車には、それぞれの利点を生かした活用分野があり、燃料電池車は長距離走行や重機などに、そして電気自動車は短距離の配送車や市内の走行に適しています。また、列車や船舶でも水素は興味深い選択肢となります。

しかし、水素燃料がそのまま「グリーン燃料」を意味するものではありません。この点での定義は日本とドイツでは異なっています。ドイツでは、電気分解で作られる水素は、風力や太陽光などの再生可能エネルギー由来のもので、特に、余剰電力発生時や系統に潮流させることができない時間帯の製造に重点が置かれています。それに対して日本では、海外も視野に入れた水素サプライチェーンが推進されています。例えば、オーストラリアやドバイなどから、当地の褐炭火力発電所にCCS(二酸化炭素改修・貯留)技術を組み合わせた施設で製造された液化水素が船で日本に輸入されています。 

e-ハイウェイ、燃料電池列車、電動貨物船  

連携強化が実を結んだ分野の一つとして貨物輸送が挙げられます。日独環境エネルギーフォーラム後に継続して開催された日独円卓会議では、同テーマについて日独の違いと共通の課題が明確にされました。地形的条件からドイツでは河川や運河を利用した輸送が多いことに対し、日本では海岸線沿いの貨物船輸送が多いという違いはあるものの、両国共に船舶分野において燃料電池や電動モーターが選択肢となっています。ディーゼルによる大気汚染に悩まされるベルリンと東京の両都市の港では、既に同分野でのパイロットプロジェクトが実施されています。また、路上の貨物輸送ではシーメンスが開発した「e-ハイウェイ」が、そして電動化されていない鉄道路線ではアルストロムの燃料電池列車などに可能性が見出されています。

これらの分野の技術は比較的新しいものです。交通分野の脱酸素化に向けて大きく前進するためにも、国際的な連携や国の域を超えた技術共同開発が必要とされています。

Deutsch-Japanisches Wirtschaftsforum auf der Hannover Messe / ハノーバーメッセにおける日独経済フォーラム Deutsch-Japanisches Wirtschaftsforum auf der Hannover Messe / ハノーバーメッセにおける日独経済フォーラム
Deutsch-Japanisches Wirtschaftsforum auf der Hannover Messe - Diskussion / ハノーバーメッセにおける日独経済フォーラムでのディスカッション Deutsch-Japanisches Wirtschaftsforum auf der Hannover Messe - Diskussion / ハノーバーメッセにおける日独経済フォーラムでのディスカッション
ヴィルヘルム・メームケン
エコス・コンサルタント創業者、代表取締役
日独産業協会(DJW)理事
info@ecos.eu
www.ecos.eu
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