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デジタル時代における企業の危機管理

CNC - Communications & Network Consulting シニアコンサルタント アルヴィン・ビンダー

日本企業ドイツ法人を想定したクライシスコミュニケーション 

2018-03-07, 12:17

KPMGが実施した2017年の調査によると、ドイツ国内企業のおよそ3分の1が何らかのサイバー犯罪の影響を受けている。被害を受けた業界は、消費財、銀行、製造業、医薬品と多岐に渡る。統計によると、サイバー犯罪による経済的損失は、ドイツ国内だけでも数十億ユーロにも上るという。

この状況は今後さらに複雑化するだろう。なぜならば、EU域内でEU一般データ保護規則(GDPR) が施行されるからだ。この結果、サイバー犯罪の被害にあった際、適切な対処をすることがより重要になってくる。今年5月25日以降、顧客情報を有する企業が情報漏洩の問題に直面した場合、発生から72時間以内に当局および消費者へ報告することが課される。

間違いなく、GDPRは危機管理体制の整備について再考する契機となるが、そもそも危機管理をするうえでベストな対応策はどのようなものだろうか。

この課題に答えるべく、去る2月5日、デュッセルドルフで行われたDJW「朝の会」にて、50名超の参加者とともに、クライシスシミュレーションセッションを実施した。この際のシナリオは、大手日系企業のドイツ法人における情報漏洩を想定、参加者には、危機発生時にどのように事態収束に向け対応すべきかを、デジタルワークショップ形式で体験してもらった。

同セッションでは、組織が直面する様々な障壁をシミュレーションした。 記者からの圧力や怒りを露わにする顧客、日本本社とのメッセージの調整、その他社内外の様々なステークホルダーへのリアルタイムでの対応を通じて、危機管理における準備の重要性を体感して頂いた。

実際に危機管理における準備で鍵を握るのは、いかに実践トレーニングにより、経験値を上げるかだ。その一方で、危機に直面した際に有効な「ゴールデンルール」が存在する。それを以下に紹介したい。


1.
最適な戦略: アクティブ vs リアクティブコミュニケーション
新たな情報が判明した際、できる限り迅速に対応することは非常に重要だ。同時に、アクティブなコミュニケーション戦略を策定できるチームを配置することも必要不可欠となる。

2. 緊急性と正確性のバランス
信頼できる一貫したコミュニケーションを行うには、いつ、どこで、社内および社外に対し、どの情報を共有すべきかを明確にすることが最も重要。また、メッセージ内容が首尾一貫していて、なおかつ、承認済みであることが大前提だ。

3.  いかなる危機であっても「人間的側面」を見せることを忘れずに。事実だけをただ言及するのではなく、気持ちを示す。
特に負傷者が出た場合などでは、事実情報の更新にとどまらず、気持ちや感情を示すことが重要。例えば、2015年3月に起きたジャーマンウィングスの飛行機事故のケースでは、同社の経営陣およびスポークスパーソン全員が遺族への配慮を優先し深く遺憾の意を示した。

4.    情報発信は危機発生した現場から
クライシスコミュニケーションでは、危機が発生した現場からコミュニケーションが発信されるべきだが、一方で、その他の本社の主要部署と緊密な連携をとることが必要不可欠。

5.    沈黙は邪推を呼ぶ
要らぬ邪推や憶測を呼ばぬためにも、たとえ、少ない情報しか確認できずとも、危機発生直後できる限り早い段階でコミュニケーションを開始することが肝要。

6.    コミュニケーションチャネルの的確な選定
クライシスの種類、場所、危機レベル等状況に応じて、プレスリリース、記者への個別の電話対応、ソーシャルメディアを通した情報発信など、最も適切なコミュニケーションチャネルを選択することが必要。

7.    ワンボイスポリシー:一貫した明確なメッセージを社内外向け発信
クライシスコミュニケーションにおけるメッセージでは、明確かつ一貫しているかに留意できるかどうかで戦略の効果が左右する。例えば、複数のサッカー場ほどの倉庫で火災が発生し、燃え上がる黒煙が地域一帯に広がった場合、企業側は社内向け・社外向けともに一貫した明確なメッセージ発信(ワンボイスポリシー)を即座に行うことが必須である。

8.    他者を非難しない
他者を非難することは、自社の信頼性の損失につながりかねず、ひいては企業全体の評判を損ねる危険性すらある。他者を非難する前に、充分に熟慮を重ねるべきである。

 9.    従業員向けに危機発生直後からコミュニケーションを開始する
企業の情報発信の透明性を確保するためには、まず、従業員向けに危機発生直後の初期段階からコミュニケーションを開始することが欠かせない。数年前にドイツ自動車連盟(ADAC)がクライシスに見舞われた際、細心の注意を払いながら1800万人以上の加盟者を対象としたインターナルコミュニケーションに一貫性を持たせることが鍵を握った。

10.  経営陣の役割
経営陣の評判を守るうえでも、然るべきタイミングで経営陣が積極的にリーダーシップをとることは重要だ。例えば、BASFの工場で大事故があった際、メディアは同社の情報発信が常にスポークスパーソンに限定され、経営陣が全くリーダーシップを見せなかったことに対しこぞって批判した。


危機管理においては、勿論理論を理解することはある程度役立つが、最も重要なのは、対応するチーム全員が予め実践的なトレーニングを受けておくことだ。クライシスに直面した際、企業の評判の運命を左右するのは、その企業がどの程度日頃からクライシスへの備えができているかどうかだ。 次のクライシスが降りかかる前に、事前準備をされてはいかがだろうか。

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シニアコンサルタント    
アルヴィン・ビンダー                                                                                                                       
Alwin.binder@cnc-communications.com
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