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ジャパニーズ・ポップ・カルチャーに対する情報探索行動

成城大学経済学部 准教授 中川正悦郎、他

潜在的ドイツ人旅行者を対象として

2019-04-15, 12:05

1.旅行者の情報探索行動の変化

皆さんは海外旅行に行く際に、どのような情報源を使って情報を集めるだろうか。旅行ガイドブックや旅行代理店のパンフレットを利用することも勿論あると思うが、おそらくより手軽に利用できて多くの情報を得られるインターネットを使って情報を集めることが多いのではないだろうか。また、特に最近ではTwitter、InstagramなどのSNSを活用して、実際の旅行者が現地でどのような経験をしており、それをどのように評価しているのかといった情報を集めている方も多いだろう。観光庁が訪日外国人旅行者を対象に実施した調査によれば、訪日前に役に立った旅行情報源として、「個人のブログ」(31.2%)、「SNS」(21.4%)、「自国の親族・知人」(17.5%)、「旅行会社ホームページ」(16.6%)という順で回答が多く、訪日旅行者が訪日前の情報探索においてインターネット上の情報源を積極的に活用していることが示されている。また、インターネット上の情報源の中でも、とりわけ個人が発信する情報が重要な役割を果たしていることがわかる(観光庁「訪日外国人の消費動向 平成29年 年次報告書」)。

近年、旅行者が旅行に際してどのような情報源を活用して情報探索を行うかは大きく変化してきており、学術的にもこのような旅行者の情報探索行動は注目されている分野である。

本稿はマーケティングと消費者行動の研究者による「英独仏旅行者の情報探索行動に注目したインバウンド促進戦略に関する研究」に基づいて、潜在的ドイツ人旅行者が、日本のポップカルチャー(以下、JPCという)に関する情報をどのような情報源を活用して調べているのかという情報探索行動の実態について、ドイツにおいて行った調査の分析結果をふまえてご紹介したい。 

2.潜在的旅行者のJPCに対する情報探索行動

まず本稿で注目しているJPCが何を指すのかについて示しておく。この点については「ジャパニーズ・ポップカルチャー・イベントにみるビジネス・チャンス」において示されたとおり、「現代日本のエッセンスを伝えるもの」として捉えられ、具体的には、日本のマンガ、アニメ、映画、ゲーム、ライトノベル、音楽、テレビ番組などがこれに含まれる。近年、日本のマンガ、アニメ、映画、音楽といったJPCの人気は世界的な広がりを見せており、海外の人々が日本に対して関心を持つ大きなきっかけとなっている。

世界的なJPCに対する関心の高まりに伴い、多くの国においてJPCに日常的にアクセスできる環境が整ってきている。例えば、日本のマンガはさまざまな言語に翻訳され出版されており、日本のアニメのテレビ放映も盛んに行われている。さらに、JPCをテーマとした海外のサイトも数多く見られる。JPCに関心をもった人々は、これらのコンテンツを通じて、JPCに対する知識を一層深めていくことになるであろう。

本稿の目的は、まず、潜在的ドイツ人旅行者を対象として、彼らがJPCに関連する情報を探索する際に、どのような情報源を主に活用しており、各情報源をどのように評価しているのか、その実態を明らかにすることである。さらに、JPCが訪日インバウンドの促進要因となりうることが考えられるため、JPCに対する好ましい評価(態度)が訪日意図にどのように影響するのかについても定量的に明らかにする。 

3.訪日インバウンド拡大の鍵となる欧州地域とドイツ人旅行者

近年、訪日外国人旅行者の数は大幅に増加しているものの、訪日旅行者全体に占める欧州からの旅行者の割合はまだまだ低く(図表1および2を参照)、訪日インバウンドを促進するうえで欧州は今後の伸び代が期待される地域である。また、本稿が調査対象としたドイツ人は、ビジネス目的での訪日が他の地域の旅行者より多く(観光庁の「訪日外国人の消費動向 平成29年 年次報告書」によれば、訪日旅行者全体ではビジネス目的の旅行者が16.2%であるのに対して、訪日ドイツ人旅行者についてはビジネス目的での旅行者が46.6%という調査結果が示されている)、観光目的でのドイツ人旅行者は未だ少ないことから、今後の成長が期待できるセグメントである。そこで、欧州においても関心が高まっている日本の観光資源であるJPCを効果的に活用することにより、欧州地域、特にドイツのように観光目的での訪日旅行者が少ない地域からのインバウンドを拡大させられる可能性が考えられる。 

4.調査の概要

先に示した研究課題を明らかにするためにドイツにおいて調査を行った。本調査は2018年5月19日から20日にかけてドイツのデュッセルドルフにおいて開催されたJPC関連イベントであるドコミ(DoKomi)の会場において、来場者を対象として実施されたものである。

なお、調査対象とする情報源についてはこれまでの研究を踏まえて代表的なものを選択した。オフラインの情報源としては、「家族・友人のクチコミ(以下、クチコミという)」「雑誌」「JPC関連のイベント(以下、イベントという)」を選択し、オンラインの情報源としては「SNS・ファンサイト(以下、SNSという)」「YouTubeなどの動画サイト(以下、動画サイトという)」「マンガ・アニメなどの公式サイト(以下、公式サイトという)」を選択した。調査で得られたデータを精査して、最終的には161サンプルを分析対象とした(分析対象の属性については図表3を参照)。 

5.分析結果

5.1. 各情報源の利用の程度

まず、「関心があるJPCに関する情報を調べるために、各情報源をどの程度利用しているのか」という質問について5段階のリッカート尺度で測定した結果が図表4である。利用される情報源としては「SNS」「動画サイト」が相対的に高く、それに対して、「雑誌」は利用される程度が低いことがわかる。全般的にオンライン上の情報源が利用される傾向が高く、特に個人により発信される情報の利用度が高いという結果であった。この結果は、情報探索の対象となる範囲は異なるものの、先述の観光庁の調査結果と一致するものといえるであろう。 

5.2. 各情報源の情報の質に対する評価

では、潜在的ドイツ人旅行者は、これらの情報源の質的側面については、どのように評価をしているのだろうか。本稿では、調査対象とした情報源間で、情報の質の評価にやや特徴的な差異が見られた「情報の有益さ」「情報の信憑性」「情報の十分さ」について分析結果を紹介する。なお、これらについても5段階のリッカート尺度で測定している。

各情報源が提供する「情報の有益さ」については、図表5で示される通り、「動画サイト」「SNS」といったオンラインの情報源が相対的に高く評価されており、またオフラインの情報源としては「イベント」が高く評価されている点が特徴的であった。その一方で、「クチコミ」「雑誌」といった伝統的な情報源は相対的に低く評価される結果であった。

各情報源が提供する「情報の信憑性」については、図表6で示される通り、「公式サイト」が最も信憑性が高く評価される情報源であり、次いで「イベント」が高いという結果であった。また、情報の有益さでは低評価であった「雑誌」が情報の信憑性という点では高評価であった点も特徴的である。公式サイト、雑誌など情報の発信者が明確である情報源は高く評価される傾向にあり、イベントは自分自身での実際の経験を伴うために高く評価されたものと考えられる。

各情報源が提供する「情報の十分さ」については、図表7で示される通り、「SNS」が最も高く、次いで「公式サイト」が高いという結果であった。情報の十分さという点でも、オンラインの情報源が高く評価される傾向であった。必ずしも情報が体系的に整理されているとは言えない「SNS」が最も高い評価であったのは意外な結果ではあったが、それだけSNS上にJPC関連の情報が多く投稿されているということであろう。 

5.3. JPCに対する態度が訪日意図の及ぼす影響

旅行者は、訪日前に様々な情報源を活用してJPCに関する情報を調べると想定されるが、その情報探索の結果、旅行者はJPCに対して、好きあるいは嫌いといった何らかの評価をするはずである。この対象に対する好ましさの程度は「態度」と呼ばれる。では、潜在的旅行者がJPCに対して好ましい態度を持った場合に、実際に、訪日をしたいという気持ち(訪日意図)が高まるのだろうか。本稿では、この関係性についても分析結果を紹介する。

本稿で想定した関係性としては、JPCに対する態度は、観光目的での訪日に対する態度を介して間接的に訪日意図を高めるという関係性と、JPCに対する態度が直接的に訪日意図を高めるという関係性である。つまり、1つ目が「JPCが好き」→「観光の目的地として日本の評価が高まる」→「日本に行きたい意向が高まる」という訪日意図への間接的な関係であり、2つ目が「JPCが好き」→「日本に行きたい意向が高まる」という訪日意図への直接的な関係である。

この分析結果が図表8である。JPCに対する態度は、観光目的での訪日に対する態度および訪日意図に対して有意な正の影響を及ぼすものの、観光目的での訪日に対する態度から訪日意図へのパスは有意ではないとう結果であった。すなわち、JPCに対する態度は訪日意図に対して、観光目的での訪日に対する態度を介した間接的な影響ではなく、直接的にのみ正の影響を及ぼすという結果が得られた。つまり、JPCに対して好ましい評価が高まると、そのことは直接的に実際に日本を訪れたいという意向を高めることになるといえる(「JPCが好き」→「日本に行きたい意向が高まる」という直接的な関係のみが確認された)。このように直接効果のみが確認された要因としては、今回の調査対象者がもともとJPCに関心が高い層であることから、訪日動機の最も大きな要因がJPCに関わる経験であったことが考えられる。そのため、本稿で示された関係性をドイツ人旅行者全体にまで一般化するためには更なる調査が必要である。もっとも、本分析により、JPCが訪日インバウンドの促進要因となることを定量的に確認することができた。 

6.旅行者の探索行動に基づいたインバウンドプロモーションへの応用

本稿の分析結果に基づけば、JPCに関心をもっている潜在的旅行者に対して、JPCに対する評価をより高めていくための施策を打つことは、訪日インバウンドを促進するための一つの有効な手段になりうるといえるだろう。また、潜在的旅行者に対して何らかのコミュニケーションを行っていくうえでは、彼らがどのような情報源を用いてJPC関連の情報を調べているのかという情報探索行動の実態をふまえて検討していくべきと考えられる。彼らの情報探索行動の実態によれば、やはりSNSを中心としたオンライン上のメディアを効果的に活用していくことが重要な課題であるといえる。ただし、SNSは発信者が匿名であることが多く、情報の信憑性という点では必ずしも最善とはいえないことから、それに加えて、マンガ・アニメの公式サイトやJPCを経験できるイベントという実際の場を効果的に活用していくことも必要であろう。

 

※本研究はJSPS科研費 JP17K02123の助成を受けたものです。

ドコミ会場での調査の様子 ドコミ会場での調査の様子
図表1 訪日外国人旅行者数の推移(出所:日本政府観光局2018年12月19日報道発表資料) 図表1 訪日外国人旅行者数の推移(出所:日本政府観光局2018年12月19日報道発表資料)
図表2 訪日外国人旅行者の内訳(2018年11月 245.1万人、出所:日本政府観光局2018年12月19日報道発表資料) 図表2 訪日外国人旅行者の内訳(2018年11月 245.1万人、出所:日本政府観光局2018年12月19日報道発表資料)
図表3 分析対象の属性(性別×年代) 図表3 分析対象の属性(性別×年代)
図表4 JPCに対する情報探索時の各情報源の利用の程度 図表4 JPCに対する情報探索時の各情報源の利用の程度
図表5 各情報源の情報の有益さ 図表5 各情報源の情報の有益さ
図表6 各情報源の情報の信憑性 図表6 各情報源の情報の信憑性
図表7 各情報源の情報の十分さ 図表7 各情報源の情報の十分さ
図表8 JPCに対する態度が訪日意図へ及ぼす影響とその関係性 図表8 JPCに対する態度が訪日意図へ及ぼす影響とその関係性
成城大学経済学部 准教授
中川 正悦郎
snakagawa@seijo.ac.jp

青山学院大学総合文化政策学部 教授
川又 啓子
kwm2017@sccs.aoyama.ac.jp

拓殖大学商学部 教授
田嶋 規雄
ntazima@ner.takushoku-u.ac.jp
成城大学経済学部 准教授
中川 正悦郎
snakagawa@seijo.ac.jp

青山学院大学総合文化政策学部 教授
川又 啓子
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