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日欧経済の追い風となる「日欧EPA」と投資先としての日本の魅力

JETROデュッセルドルフ事務所所長 / DJW理事 渡邊全佳

日欧パートナーシップの新時代へ

2018-02-05, 09:37

振り返れば2017年は政治的にも経済的にも激動の年だった。Brexit、米国トランプ政権の誕生と「アメリカ第一主義」、フランス総選挙のルペンの予想外の健闘、そして、ドイツ連邦議会選挙の結果と政権協議の難航など思いもよらない事態の連続だった。この余波はしばらく続きそうな状況で、予断を許さない。

ドイツでの存在感を強める日本企業

激動の只中にあって、ドイツにおける日本企業のビジネスはその存在感を一層高めている。外務省の在外日系企業調査によると、2016年時点で、ドイツにおける日系企業の数は1,800社を超え、その数は10年前の1.5倍となっている。直接投資額は、19.5億ユーロで、これも10年前に比べると約2倍になっている。

日独・日欧経済の追い風となる日欧EPA

さらに、2017年の7月に大枠合意した日欧EPAは明らかに追い風となるだろう。12月には電撃的に交渉が妥結した。投資紛争などの解決制度を切り離して、関税・ルール各分野で交渉を終えた。日欧EPAは世界のGDPの約3割を占め、貿易総額の約4割、人口6.4億人をカバーする「メガ自由貿易協定」となる。今後、双方で協定文を取りまとめ、2018年夏に署名、2019年の発効を目指している。

日独・日欧経済の追い風となる日欧EPAの主な内容について紹介する。関税分野では、日本側が農林水産品、工業品を合わせて約94%、EU側が約99%を撤廃する高い自由化水準を誇る。ルールの分野でも原産地規則、関税・貿易円滑化、サービスの貿易・投資自由化・電子商取引、知的財産保護、コーポレートガバナンスなど高度な水準の規律が盛り込まれている。

交渉で日本側が重要視していたのは、自動車や電気機器などの工業製品の関税撤廃だった。日本の自動車の対EU輸出割合は全体の11.1%、自動車部品では同じく13.5%を占める。化学工業品も同じく11.3%を占める主要品目だ。交渉の結果、工業製品で100%の関税撤廃を獲得し、EPA発効時点で工業製品の無税割合は、38.5%から81.7%へと上昇する。自動車は発効後8年目に関税撤廃することで合意し、自動車部品については貿易額ベースで、92.1%の即時撤廃で合意している。電気機器は91.2%、化学工業品は88.4%の即時撤廃を実現し、これまで14%と高関税が課されていたカラーテレビは発効後6年目に撤廃することになった。

一方、EU側の要望は、農林水産品の関税撤廃のほか、自動車や電気製品などの規制の緩和だった。EUの食料品類の対日本輸出割合は全体の13.3%であり、豚肉は36.4%、ワインは72.9%にも上る。また、化学工業品も同じく38.7%を占める主要品目だ。米については、関税削減・撤廃等から「除外」されたものの、ソフト系チーズはフレッシュチーズやプロセスチーズなどの各種チーズを含め、関税割当てとして数量枠を設定し、日本国内での消費の動向を考慮しつつ、日本の生産拡大と両立できる範囲で合意した。具体的には、初年度20,000トンを割り当て、16年目に31,000トンとなるよう段階的に引き上げる予定だ。ワインについては、関税は即時撤廃されるため、日本の国民は良質のドイツワイン、フランスワインをこれまで以上に安く飲むことができるようになる。工業製品については、すべて関税を撤廃し、EPA発効時点で工業製品の無税割合は77.3%から96.2%に上昇する。化学工業製品や繊維・繊維製品についても、関税を即時撤廃することで合意し、関税率が最高30%の皮革・履物については、関税を発効後11年目もしくは16年目に撤廃することになっている。

スペースの都合上、ルール分野についての詳細内容は割愛するが、安倍総理が「自由で公正なルールに基づく経済圏を作り上げる。日欧の新しい時代がスタートする」と語り、ユンケル委員長が「自由貿易の旗を掲げ続けるという強い政治的意思を示すことができた。日欧の合意は戦略的な重要性を持つ」と語った日欧EPAの交渉妥結は、日欧経済の成長をさらに後押しすることは間違いない。

対日投資の状況

日本政府の成長戦略のひとつである日本への投資について記す。2016年末時点で、日本の外国直接投資残高は2,100億ユーロとなっている。政府は日本経済を好転させるべく、この対日投資残高を2020年までに2,600億ユーロへと引き上げることを目標としている。ドイツは言うまでもなく重要な相手国のひとつだ。

2016年のドイツからの対日直接投資額は3億ユーロで、残高は61億ユーロを上回っている。自動車、機械、電気・電子、ITなどドイツの中でも強い産業の投資が顕著だが、ドイツは世界で10番目に多く日本に投資している国となる。

在日ドイツ商工会議所が毎年実施している在日ドイツ企業へのアンケート結果によると、在日ドイツ企業の86%が日本において利益を上げており、87%が日本を有望な市場と考えていると報告されている。しかしながら、世界から見ると、ドイツの日本への投資はわずか3.1%に過ぎず、これはフランスや英国、オランダよりも少ないのが実態だ。

日本市場の魅力

この機会に日本の魅力を紹介したい。

日本はバブル経済崩壊後、「失われた20年」と言われ、ゼロもしくはマイナス成長に甘んじた。2012年に安倍政権が発足し、経済対策「アベノミクス」が発表され、その成果は着実に表れている。株価は26年ぶりに最高値を記録した。OECDの統計によると、日本の外国企業の投資リターン率は平均10%で、OECD加盟国では第3位、サービス業に限れば第1位となっている。日本はたしかに「収益性の高い市場」で「稼げる国」であると言える。

政府も規制緩和を進め、法人税率も20%台にまで引き下げた。さらに、賃上げや設備投資、革新的技術を以って生産性向上に挑む企業には20%まで引き下げることを検討している。

分野ごとの魅力にも触れてみる。まずは自動車だ。国内での販売台数、売上はここ数年横ばいの状況だが、日本の自動車メーカーはすでに世界各国に進出して生産を行なっている。一方、デザインや開発は未だ多くが日本で行われており、ここに外国企業が日本に進出することのメリットが生まれてくる。開発では顧客企業の担当者から数時間以内の対応を求められることもあり、時差は致命的な要素のひとつとなる可能性がある。

他方、日本の完成車メーカーは世界の主要市場でシェアを伸ばしている。年1,700万台が新車登録されているアメリカでは、日本のシェアは38.2%、666万台が売られている。インドでも中東でも日本車のシェアは非常に大きくなっている。

電気自動車分野でも、日産、テスラの両メーカーに追いつくように、トヨタもホンダも本格参入を決定し、日本メーカーが存在感を増すだろう。

自動車産業に追随する形で、部品メーカーにとってもチャンスとなる。産業用ロボットや工作機械関連メーカーにとっても同じだろう。日本国内の設備投資はここ数年好調を維持し、国内受注も前年比で16.8%上昇している。国外からの受注は39.8%も増加している。

ドイツが強みを持つ3Dプリンターに代表されるような革新的技術が日本の市場で躍動する可能性が十分にある。

日独間の連携

また、ドイツがリードする「インダストリー4.0」に絡む分野にもビジネスチャンスがあるだろう。日本も「ソサエティ5.0」と題した科学技術政策の基本方針を策定し、世界に先駆けた「超スマート社会」の実現を目指している。2016年4月には日独間において、IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明に署名した。インダストリー4.0をソサエティ5.0に取り込んでいこうという姿勢だ。実際、日独の協業がすでに行われている。ドイツのコンチネンタル社が北海道・紋別で自動運転の実証実験を行い、内閣府が日独の自動車・自動車部品メーカー、大学などと「首都高速」で実証実験を開始している。

地図・位置情報サービスのヘレ社は自動運転向けの高精度の地図を持ち、富士通、ゼンリン、パイオニア、三菱電機と連携・協力をしている。

また、工場を遠隔監視する3Dシュミレーションシステムのツェニット社なども日本政府による補助金で実証実験を行っている。

ここで紹介したのは日独協力のほんの一例に過ぎない。今後の日独・日欧経済の深化は止まることを知らないだろう。

最後に、2018年が皆さまのビジネスにとって有意義な1年となることを願って止まない。

 

ジェトロ・デュッセルドルフ事務所所長 
日独産業協会(DJW)理事
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