DJW理事長 ゲアハルト・ヴィースホイより

G20サミットと貿易摩擦問題に関する議論の行方

2019-06-17, 10:31

6月28日、29日に大阪で開催されるG20サミットが、グローバル規模での貿易摩擦問題一色となることは必至です。5月初旬に米中間の貿易を巡る対立が突如エスカレートしたことのみならず、メキシコへの正当な根拠なき懲罰的な追加関税措置の提示を背景に、確固たるルールに基づいた国際貿易に対する企業の信頼は失われつつあります。米国のトランプ大統領が、両国間の貿易とは何ら関係のない理由に基づき、時を置かずしてメキシコに対する関税率の引き上げを実施したならば、「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」交渉におけるメキシコの譲歩にいったい何の価値があるというのでしょうか。

常軌を逸した米国の行動による影響は既に致命的です。ただし、関税引き上げが世界経済に与える直接的な影響は、マクロ経済的観点からは単に増税と同等に過ぎないものであることから、最小限に留まると考えられます。その一方で、企業による投資計画が昨年全世界規模で大幅に削減されたこと、それが目下の世界経済の減速を引き起こしたことを鑑みれば、先行き見通しに対する企業の信頼感喪失がもたらす影響は甚大であると考えられます。このたびの緊張の高まりは、グローバル規模での景気減速のトレンドを更に強めかねません。

それでは、EUと日本は、ドナルド・トランプ大統領のような予測不可能なパートナーといったいどのように対話をしていけばよいのでしょうか。EUが報復措置により米大統領に手痛い打撃を与えかねないこと――基本的にもはやあり得ないことではありません――を鑑みれば、トランプ大統領は、2020年11月の次期米国大統領選挙まではEUに対する懲罰的関税課税を実行に移さない可能性も考えられます。米国の2018年の対EU輸出額は、モノとサービスを合わせ3,200億ドルに上っています。つまり (1) 米国以外の他国に同程度の価格の代替品が存在することから、常に輸入先の切替が可能である、(2) それが、民主・共和両党の支持率が拮抗する州「スイング・ステート」に拠点を置く米国企業にとっては決定的な打撃を与える、という基準が満たされる状況で、EUもまた米国製品のラインアップに対して幅広い選択肢を確保出来る関係が成り立っているのです。欧州の消費者が米国以外から類似製品を調達することが可能ならば、当該米国企業は対EU向け輸出を継続するためには利幅を縮小せざるを得ず、減益を余儀なくされます。欧州の消費者が追加関税を支払う必要はないのです。

英ウォーリック大学による研究結果も、過去にEUと中国により取られた対抗措置がとりわけ「スイング・ステート」内の米国企業を直撃したこと、更に中間選挙における共和党候補者の得票率を統計上明らかに2~3%押し下げたことを示しています。すなわちEUは対抗手段を取ることでドナルド・トランプが米国大統領に再選される可能性を狭めることができるのです。

日本は安倍晋三首相のもと、EUとは異なる道を選択し、地政学的状況を理由に米国に大きく歩み寄りを見せているようです。それでもなお、日本が世界に対し更に門戸を開く準備ができていることは明らかです。日EU間(EPA)、そして日本を含むアジア太平洋地域の11ヶ国の間(TPP-11)で結ばれた世界で最も大規模な自由貿易協定は、日本のイニシアティブなくしては実現しませんでした。両協定とも既に発効されています。

とはいえ、今後もトランプ政治が迷走を続け騒ぎを繰り返す懸念があるとしても、米国を信頼して交渉し、それにより市場の開放と自由な双方向の貿易を実現するほか、EUと日本に選択の余地は残されていません。果たしてG20サミットの場で何らかの方向性が導き出されるか、議論の行方が注視されます。

ゲアハルト・ヴィースホイ(Gerhard Wiesheu)
B. Metzler seel. Sohn & Co. AG 代表取締役
DJW 理事長
info@djw.de
http://www.djw.de
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