DJW理事長 ゲアハルト・ヴィースホイより

アメリカ大統領選挙が日独両国に示唆するもの

2021-01-14, 19:29

ジョー・バイデン氏が今回米国新大統領に選出されたのは、日本とドイツにとって間違いなく大きな安堵感をもたらしたといえるでしょう。同氏は選挙戦の最中において、伝統的な同盟国とのより緊密な協力関係を構築したいと表明していました。これによって、新米国大統領の下で米国とEUとが本格的な貿易戦争に突入するリスクは、著しく減少しています。また、日米間でも貿易紛争が勃発するリスクは低いといえるでしょう。米国はドイツにとって2019年の輸出額が1,340億米ドル(全輸出の9%)に上る重要な輸出市場であり、日本にとっても同年の米国向け輸出は1,400億米ドル(全輸出の20%)を占めています。

ジョー・バイデン新大統領の下では、米国の通商政策もより予測可能になる可能性が高く、従来の事業計画立案上の不確実性が緩和される可能性が高いでしょう。これによって、ドイツと日本における事業投資が再び持ち直す可能性は高いです。しかし、米国の貿易赤字はここ数ヶ月で著しく悪化しており、それによって世界における貿易不均衡が再び拡大しています。米国はこの状況に不満を持っており、このことが日本とEUにとっての潜在的なリスクを包含しています。4年後に再び行われる大統領選挙での政権交代の可能性も見据えれば尚のことです。従って、EUと日本は、米国を長期的に自由貿易協定の枠組みに繋ぎとめるよう検討すべきです。さもなければ、その代償は間違いなく両国にとっての通商政策上の明らかな譲歩として現れてくることでしょう。

現状の貿易不均衡のもう一つの側面は、米国が中国との貿易紛争を一層激化させる可能性が高いということです。それは必然的にEUと日本を巻き込むこととなり、両国共に厳しいジレンマ状態に陥ります。2019年、ドイツは1,070億米ドル相当の商品を中国に輸出し(全輸出の7%)、日本は1,350億米ドル(全輸出の19%)を輸出しました。日本とドイツにとっては、輸出市場としての中国がほぼ同じような重みを持っているので、このジレンマ状態により、いわば椅子の間に転げ落ちるような危険にさらされています。従って、両国にとっては、米中間の紛争を上手に管理することは極めてチャレンジングな課題になりそうです。一方で、世界貿易の多国間枠組みを変革し、他方では、将来の主要経済圏間の大きな貿易不均衡現出を防ぐメカニズムを見つけることは、両国にとっての共通の目標となるでしょう。近年の歴史的事実が度々明示している通り、大きな貿易不均衡が金融市場の危機や政治的対立につながり得るリスクがあり、深刻な危険を内包しているからです。

経済的な課題を別にすれば、日本とドイツにとっての今年の喫緊の課題は他の多くの国と同様、コロナ禍を抑えるということに尽きるでしょう。予想外に速く利用可能なワクチンのおかげで、私はこの課題解決が2021年中に可能になると確信しております。そして、本年が皆様全員にとって健やか、かつ繁栄に満ちた年となることを祈願しております。

ゲアハルト・ヴィースホイ(Gerhard Wiesheu)
B. Metzler seel. Sohn & Co. AG 代表取締役
DJW 理事長
info@djw.de
http://www.djw.de
ゲアハルト・ヴィースホイ(Gerhard Wiesheu)
B. Metzler seel. Sohn & Co. AG 代表取締役
DJW 理事長
info@djw.de
http://www.djw.de

協賛会員