DJW理事長 ゲアハルト・ヴィースホイより

最近の米国株式市場の動向からの洞察と教訓

2021-02-15, 13:00

このところ、GameStop株を含む一部の米国株の極めてボラタイルな価格変動が話題になっています。個人投資家に端を発した投機の波が現段階ではまだ日独両国に波及していないとしても、両国はすでに最悪の事態に備えた警戒が必要となっています。その詳細については後ほど触れます。

何が起こったのでしょうか?過去数年の間に、米国において数多くの新しい株式取引サイトが立ち上がり、手数料無し等、非常に安価、かつ簡単に株式やストックオプションの取引が出来るようになっています - その中には、最近やや怪しげながら急速に台頭し、誤解を招くような名前で取引する "ロビン・フッド "という株式取引サイトを運営する企業があります。このようなサイトを利用した個人投資家の活動が急拡大したことにもより、株式取引における個人のシェアは、2019年の10%前後から2020年には20%を超える比率に倍増しています。この傾向は、米国のロックダウンや家計への多額の政府支援と共に、(自由になる余分な)可処分時間が生み出されたことによっても増幅されているようです。

原則的には、この傾向は国民経済における生産的資源に占める人口の割合が継続的に増加している場合には歓迎されるべき事象である、といえるでしょう。しかし現実には、特に米国においては、投機的な熱狂が背景となっているようです。 最近、ソーシャルメディアによるコミュニケーションチャンネルが拡充されている影響もあり、この熱狂は新たなレベルにエスカレートしています。。例えば、ヘッジファンドのような機関投資家は、空売り株の保有状況を定期的に開示しなければなりません。株式を借りて(借り株)、それを売って、3ヶ月か6ヶ月後に買い戻す能力、つまり空売りを日々実行する能力を保有することは、株式市場においては非常に重要な機能となっています。何故なら、この機能により個々の株式が過大評価されるリスクを防ぐことが可能となるからです。合理的な説明がつかないような高い株価は、ゾンビ企業の出現、そしてそれに伴う投資家の手痛い損失につながる可能性があるため、非常に危険です。

今回の事態では、空売りの対象となった株式の多くに標的を定めて価格高騰を煽るべくソーシャルメディアを通じて呼びかけられ、投機的投資を好む個人投資家が結集されました。その結果、ヘッジファンドは異常に吊り上げられた株価で空売り株を買い戻さざるを得なくなり、巨額損失を被る結果となったのです。一見するとこの投機的活動は成功しているように見えます。しかし、よく精査してみると、投機的な個人投資家を結集して株価高騰を煽る攻撃が株式市場での適正価格への収斂の動きを著しく歪め、混乱させ、その結果、かなりの誇張された価格展開を助長するリスクが垣間見えます。また、多くの個人投資家は、株価高騰による予想外の濡れ手に粟の高い利益を受けて投機的活動に無頓着になり、これまで以上に高いリスクを負うようになります。というのも、最新の研究結果によると、株価高騰による予想外の高利益を得ることによりドーパミンやテストステロンが大量に体内に放出され、ちょうど薬物服用でハイになった状態と酷似したような状況になることが指摘されています。経験上、このような「ゲーム」に興じることは、投機に飢えた大多数の投資家にとっては決して良い結果をもたらすとはいえず、遅かれ早かれ大きな損失に帰着するケースが多いでしょう。また、中期的には株式市場、並びに経済秩序への信頼を揺るがす懸念もあります。

欧州や日本では、幸いなことに、株式市場ではまだそのような歪んだ投機的趨勢は観測されていません。 しかし、投機的な波は、いつ何時でも突如として出現する可能性があります。もしそのような由々しき事態となった際に、禁止令などの政治的手段で対処する場合には株式市場での正常な取引が相当程度損なわれてしまう事態となることは不可避でしょう。だからこそ、今このような投機的な取引が孕む大きなリスクについての啓蒙を行い、そのために考えられるあらゆるコミュニケーションチャネルを最大限活用することが重要であると考えられます。しかし、その一方で株式が提供する根本的に大きなチャンスを見失ってはなりません。投資家が投資に関する長期的、かつ幅広い展望を持ち、株式市場をギャンブルのカジノと混同しないようしっかりした座標軸を持つことが前提となります。

ゲアハルト・ヴィースホイ(Gerhard Wiesheu)
B. Metzler seel. Sohn & Co. AG 代表取締役
DJW 理事長
info@djw.de
http://www.djw.de
ゲアハルト・ヴィースホイ(Gerhard Wiesheu)
B. Metzler seel. Sohn & Co. AG 代表取締役
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