DJW 理事長 ゲアハルト・ヴィースホイ

AIと無形資産の重要性の高まりにより進む経済の変容

2018-03-29, 10:23

DJWは来る4月16日、「人工知能(AI)」をテーマにシンポジウムを開催する運びとなりました。本テーマを選んだ背景には、遠くない将来、AIが企業の成長に並々ならぬ重要性を持つだろうことが確実視されているからにほかなりません。半導体、コミュニケーション機器、センサーなどの価格急落が続いていることは、AIの導入を更に後押しすることになるでしょう。それにともない、今後数年の間に、コンピューターの利用が一層進み、また相互に接続されていくだろうと思われます。それに比例し、企業内で蓄積されるデータ量も、今後、爆発的に増加することが見込まれています。多くのプロセスは、人工知能によってのみ制御可能となるやもしれません。このような流れの中、従前の有形固定資産に対する投資が減少を続ける一方、ソフトウエアをはじめとする無形資産への企業投資は、この先数年にわたり力強い上昇を見せるだろうと考えられます。

 無形資産には、AIのみならず、他のソフトウエア・アプリケーション、研究開発(R&D)、デザイン、ブランディング、そしてビジネスプロセスなどが含まれます。これらの無形資産は従来型の有形固定資産と全く異なる経済的特質を持ち、ハスケルとウェストレイクの定義によると埋没性(sunkenness)、波及効果(spillovers)、相乗効果(synergies)、拡張性(scalability)の4点において際立つとされています。多くの無形資産については中古市場が存在しません(埋没性)。そのため企業が銀行から融資を受ける際に無形資産は担保として認められず、資金調達を得ることが困難となります。このような状況において企業は、比較的審査のハードルが低い公庫からの借入や、自己資本の拡充によりビジネスの拡大を図ることになります。また一部の無形資産は模倣が容易であり(波及効果)、自社の研究成果や独自のデザインを他者にコピーされる可能性が否めません。つまり投資が他者のメリットとなるリスクがあり、そのことが投資のインセンティブを弱め、過少投資ににつながり得るため、マクロ経済的観点からは非効率的であるといえます。その一方で、複数の無形資産を組み合わせることにより、個々の資産よりも、多くの価値が生まれます(相乗効果)。最後に、たとえばソフトウエアなどの無形財は、容易に複製され得るため(拡張性)、「勝者の一人勝ち」の状態につながりやすく、つまり独占市場が生じ易いという特徴があります。

これらを鑑みれば、デジタル化と人工知能が、経済における旧来の公式をどのように変えていくか、そして企業の成功要因が今後どのように変容していくか、問い直しが求められます。更に言えば、企業の財務諸表が持つ説得力が徐々に問われることになりましょう。現在の会計制度は、今なお、伝統的な有形固定資産を持つ企業を理想として設計されています。上述のような変化とそれにともなう課題に直面する中、日本と欧州連合が自由貿易協定の枠組みにおいて、人工知能の利用に関する共通基準の策定を試み、同分野での協力関係を強化しようとしていることは非常に喜ばしいと言えます。

 

ゲアハルト・ヴィースホイ
B. Metzler seel. Sohn & Co. AG 代表取締役
DJW理事長
info@djw.de
http://www.djw.de
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