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ジャパニーズ・ポップカルチャー・イベントにみるビジネス・チャンス

青山学院大学総合文化政策学部 川又啓子教授、他

マーケティングと消費者行動の観点から考えるJPCEの拡大

2018-04-20, 13:17

フィギュアスケートと将棋の共通点?
いきなりで恐縮ですがクイズです。(答えは文末に)

  1. 2018年平昌オリンピックの女子フィギュアスケートで銀メダルを受賞したロシアのエフゲニア・メドヴェージェワ選手が好きな日本のアニメは?
  2. 初の外国人女流プロ棋士になったポーランド出身のカロリーナ・ステチェンスカさんが将棋をはじめるきっかけとなった日本のマンガは?

外国人が日本文化に興味があると聞けば、嬉しい気持ちになるものの、マンガやアニメといったポップカルチャーとなると、とりわけ在留邦人の方々にとっては、いささか困惑するというのが偽らざるところかもしれない(アニメ・イベントの開催で最大の障壁が日本人コミュニティだったこともあるように聞く)。しかしながら、マンガやアニメのような日本のソフトパワーの世界的な広がりは、当の日本人であるわれわれの想像を超えた規模に拡大している。

本稿はマーケティングと消費者行動の研究者による「文化資源の集散地の形成・発展メカニズムに関する研究」に基づく、カルチャーとビジネスが邂逅する場であるジャパニーズ・ポップカルチャー・イベント(Japanese Pop Culture Events。以下、JPCEと表記)についてのレポートである。(本文はこちら

ジャパニーズ・ポップカルチャーとは
外務省のサイトでは、ジャパニーズ・ポップカルチャーとは、大衆向けの文化全般のことを表し、現在では「訴求力が高く、等身大の現代日本を伝えるもの」とされている。本稿ではこの定義に依拠し、ジャパニーズ・ポップカルチャーを「現代日本のエッセンスを伝えるもの」として捉えることとする。具体的には、マンガ、アニメ、映画、ゲーム、ライトノベル、音楽、テレビ番組等がこれに該当する。

関連するビジネスの側面では、米国商務省発表の2017 Top Markets Report Media and Entertainment (PricewaterhouseCoopers編)によれば、2016年の世界のメディア・エンタテインメント市場(出版、映像、音楽、ビデオゲーム)の規模は1.9兆ドル。国別ではトップが米国の7,120億ドルで、以下2位中国1,900億ドル、3位日本1,570億ドル、4位ドイツ970億ドル、5位英国960億ドルと続く。また、『デジタルコンテンツ白書2017』によれば、2016年の日本のコンテンツ産業(映画、アニメ、音楽、ゲーム、書籍など)の市場規模は12兆3,929億円(前年比2.7%増)で、ここ数年12兆円台で推移している。

実はジャパニーズ・ポップカルチャーにはもう一つの側面がある。オリジナル・コンテンツを楽しむばかりではなく、オーソライズされてはいないものの、オリジナル・コンテンツにちなんだものを楽しむ、派生的コンテンツ(二次創作物)の消費である。具体的には、マンガやアニメのキャラクターに扮したコスプレ、同人誌、聖地巡礼と呼ばれる原作の舞台となった場所への訪問などがある。

これらは、必ずしもオーソライズされたものではないために市場取引の商材になりにくく、企業側から見ればマーケティングの対象になりにくいと考えられてきた。しかしながら、著作権上グレーな部分はあるものの、初音ミクのように二次創作を前提とした商材もあり、新たな展開も生まれている。また、マンガ・アニメの商材に関しては価格競争など起こりえず、利益率は非常に高いはず。マンガ・アニメとコラボすることで、たとえば、米国でのトヨタと初音ミクとのコラボのように、若者からの注目を集めたり、彼らとの接点をもったりすることができるようになる。

JPCEの現状
さて、近年、世界中で数多くのJPCEが開催されており、2015年度以降は年間200件前後のイベントが世界各地で開催されている(内閣府クールジャパン・イベントカレンダー)。ジャパニーズ・ポップカルチャーは、日本政府主導による「クールジャパン戦略」の重要項目にも位置付けられているが、ジャパニーズ・ポップカルチャーをコンテンツとするJPCEに対しては研究上の十分な関心が払われてきたとはいいがたい。JPCEはジャパニーズ・ポップカルチャーを世界に紹介する重要な拠点となるだけではなく、イベントに参加した消費者が訪日への関心を高めることでインバンドにもつながる可能性もあり、その重要性の高さからもっと注目されるべきであろう。

Japan ExpoとAnime Expo
JPCEの中でもマンガ・アニメを中心としたイベントとして毎年多くの来場者を集めるのが、Japan Expo(毎年フランス・パリで開催 図表1)とAnime Expo(毎年アメリカ・ロサンゼルスで開催 図表2)であり、図表3からは、両イベントが年を追うごとに来場者数を増加させていることがわかる。2017年は10万人の差がついたものの、フランスが米国の2割程度の人口規模であることを考えれば、Japan Expoの集客力には目を見張るものがある。

来場者のマンガ・アニメに対する関与は非常に高く、イベントの開催は遠方から(場合によっては国外から)の集客が期待できる。当然のことながら、宿泊・飲食等の地域への経済効果が見込まれる(両イベントの概要は図表4)。たとえば、10年前にはJapan Expoの来場者と訪日客とは客層が異なると考えられていたが、来場者が大人になり実際に訪日する事例や、子どもを通して日本への関心が高まり、家族旅行へとつながる事例も増加しているといわれ、訪日客の層の拡大に一役買っているという。

派生的コンテンツとJPCE
前述のようにジャパニーズ・ポップカルチャーを楽しむ人々には、オリジナル・コンテンツを楽しむ人々とオリジナルだけでなく派生的コンテンツをも楽しむ人々が含まれる。後者の派生的コンテンツをも楽しむ人々として近年注目されているのが、年2回東京で開催され毎回 55万人もの人々を集めるコミックマーケットの来場者やコスプレイベントの来場者である。

コミックマーケットでは同人誌と呼ばれる、二次創作的な作品が数多く販売され、毎回、来場者の熱狂ぶりが報道でも大きく取り上げられている。コスプレイベントは JPCE の1コーナーとして開催されることもあれば、毎年 7 月に名古屋で開催されるワールドコスプレサミットのようにコスプレのみの大規模なイベントとして開催されることもある。

JPCEは、オリジナル・コンテンツを「読む」「見る」という消費者、派生的コンテンツを「描く」「演ずる」という生産者、さらに派生的コンテンツを「読む」「見る」消費者が集う場として発展していくと考えられる。いずれにしても、オリジナル・コンテンツと派生的コンテンツをも楽しむ人々をターゲットとした JPCE が、多くの来場者を集めている現状において、派生的コンテンツがマーケティングの商材として無視できないほどの市場性をもっていることは注目すべきである。

ドイツでのJPCEの可能性
本稿は、カルチャーとビジネスが邂逅する場としてのJPCEに注目したレポートであるが、大方の読者はドイツは違うと思っておられることだろう。しかしながら、著者らが実施したインタビュー調査では、ドイツも有望市場とみなされていた。実際にLeipziger Buchmesseでは、manga-comic-con部門だけで10万人の集客があるが(図表5)、筆者らが訪問した際にも数多くのコスプレイヤーが参加して大盛況だった。とくにドイツでは、手作りのコスプレ衣装の完成度が非常に高いものがあるといい(図表6)、職人気質の一端を垣間見ることができる。このようにJPCEはオリジナルなコンテンツばかりではなく、派生的コンテンツの市場形成の誘因になる可能性が大きく、消費者主導型市場として新たな視点を提供するものと考えられる。

<答え>

  1. 美少女戦士セーラームーン」他(2017/01/31 日本経済新聞 朝刊37面)
  2. NARUTO(ナルト)」(2017/02/21 日本経済新聞 朝刊38面)

 

※本研究はJSPS科研費JP15K01964ならびにJP16K03943の助成を受けたものです。

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ドイツでは子供っぽさが先行するかもしれないマンガ・アニメですが、その潜在性は侮れません! 2018年5月19日、20日にDüsseldorfで開催されるDoKomiの会場で、著者の一人が、19日土曜日の午後から、ドイツ人の訪日意向に関する質問紙調査を実施する予定です。ご協力頂ける方は是非お運びください。

 

図表 1  Japan Expo (Paris, France) 図表 1 Japan Expo (Paris, France)
図表 2  Anime Expo (LA, USA) 図表 2 Anime Expo (LA, USA)
図表 3 Japan ExpoとAnime Expoの来場者数の推移 図表 3 Japan ExpoとAnime Expoの来場者数の推移
図表 4 Japan ExpoとAnime Expoの概要 図表 4 Japan ExpoとAnime Expoの概要
図表 5 Leipziger Buchmesse来場者数の推移 図表 5 Leipziger Buchmesse来場者数の推移
図表 6 Leipziger Buchmesse 2016 図表 6 Leipziger Buchmesse 2016
川又啓子
青山学院大学総合文化政策学部 教授
kwm2017@sccs.aoyama.ac.jp

田嶋規雄
拓殖大学商学部 教授
ntazima@ner.takushoku-u.ac.jp

黒岩健一郎
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科 教授
kuroiwa@gsim.aoyama.ac.jp

三浦俊彦
中央大学商学部 教授
tmiura@tamacc.chuo-u.ac.jp

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