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株式会社TENGA:「情熱なしに、世の中は変えられない」

J-BIG 7月号:ビョルン・アイヒシュテットと大浦詩織カミラによるインタビュー

DJW協賛会員Storymaker GmbHによる記事

2022-08-11, 16:38

昨今、「フェムテック」に注目が集まり、アダルトグッズのグローバル市場も数年連続拡大しています。その一方で、依然として、「性」というテーマがタブー視されているということも否めません。セクシャルウェルネス商品を展開する株式会社TENGAがビジネスにおいて日常的に直面する困難の数々は、まだまだ偏見が残る社会状況そのものを反映しています。今回のJ-BIGは、昨年末に、累計出荷品数1億個を突破した同社の欧州拠点、TENGA Europe GmbHのマネージングディレクター茶谷悟史氏のインタビュー。創業期を振り返り、日本とドイツにおける市場を比較しながら、事業にかける思いや今後の計画について赤裸々に語っていただきました。

 

— TENGAをまだご存知ない方のために、会社紹介をお願いします。

茶谷悟史氏:当社は、セクシャルウェルネス商品やヘルスケア商品の開発から製造、販売までを行う事業、そして、「性」にまつわる正しい知識や病気の予防法などの啓発を行う事業という、主に2つの柱からなっています。当社の商品は安全で、衛生的で、機能的であることに加えて、スタイリッシュさも併せ持つアイテムを幅広く展開しており、部屋に堂々と置いておいても、インテリアや装飾にも見えるような、従来のアダルトグッズと一線を画したデザインを意識しています。

日本でのブランド認知度は、男性85.7%、女性63.4%と高いのですが、市場浸透できた理由の一つとして、新奇性を追求したデザイン性というのも挙げられると考えています。TENGAという社名自体、「整っていて上品なさま、みやびなさま」を表す「典雅」という日本語に由来しています。私たちの品質へのこだわり、そして、業界イメージを刷新したいという思いが込められているのです。

創業以来、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンを掲げ、性の話題がもっとオープンになることを目指しています。そのためにも、会社として、表に立つことや情報発信を率先して行うことなども心掛けています。私たちの本社オフィスは、東京の中でも華やかなイメージのある麻布十番に位置しており、デュッセルドルフにある欧州オフィスも、活気に満ちた「リトルトーキョー」として知られるインマーマン通りに面しています。この立地というのも、社長のこだわりの一つですね。

— どのような経緯で創業されたのでしょうか?

茶谷悟史氏:松本光一社長はTENGA設立前、スーパーカーやクラシックカーの整備士をしていました。一時期、中古車販売会社にも勤めていましたが、モノづくりへの憧れを諦め切れず、30代前半の頃に退職することになりました。社長は、私にとって、ピカソやゴッホを連想させるような、創造力に長けたクリエイティブな方であり、大きなビジョンをもつ経営者ですね。独立当初、自身で新たなモノづくりの着想を得るため家電量販店や文房具や、ホームセンターなど様々な店舗を視察している中、DVDショップでたまたま目に留まったマスターベーションアイテムを見て閃いた話は、記憶に強く残っています。「僕も、僕の周りの友達もみんな(マスターベーションが)好きなのに、なんでそのために作られた商品を手にする事に抵抗あるんだろう?」と気づき、そこから“一般プロダクトとして“のプレジャーアイテムの研究やプロトタイプの開発など試行錯誤を繰り返し、2005年3月に有限会社TENGAを設立しました。今でも人が経験したことのない快感を生み出すことを目標に商品開発を進め、現在全世界グループ全体で約200名の社員が働いています。

— 御社ではどのような商品を展開していますか?

茶谷悟史氏:当社のプレジャーアイテムは、女性、男性、LGBTQ+、障害者、カップルなど、誰でも使っていただけます。その他には、アパレル商品、日本国内ではエナジードリンク、コンドームなども販売しています。顧客層は主に20代〜30代の若者層が多いものの、基本的にはシニア世代までターゲットとしています。実は60代以上の方の6割は性的欲求や需要が高いということが分かっています。

男性向け商品には、使い捨てタイプと水で洗って繰り返し使用できるタイプがあります。最も有名なのが、使い捨てタイプの「オリジナルバキュームカップ」。創業年の7月に、最初の商品として発売し、わずか1年で、累計出荷数100万本に輝いたヒット商品です。繰り返し使用タイプは、水で洗いやすく乾きやすいため衛生的で、何度も再利用することが可能です。吸着感をコントロールできたり温度調整ができたりと高機能なものが多いです。またキース・ヘリングをはじめとするアーティストとのライセンス契約を通してコラボ商品を販売しています。また、身体が不自由な方など、握力が弱く自分ではマスターベーションを行えない方に対しては、自助具も提供しています。

女性向け商品の「iroha」シリーズは、「和モダン」というテーマのもと、開発からデザインまで、当社の女性社員が手掛けています。日本語でいう「iroha」というのは、アルファベットの「abc」にあたります。実は、アダルトショップに足を運ぶ人の内訳として、欧州ではアダルトショップの陳列商品の8割が女性向けで占めていますが、日本ではその比率は逆転し、大半が男性向けなのです。セルフプレジャーのための商品を、日本の女性にとって少しでも手に取りやすい、身近なものにしたいという思いを込めて、このようなブランド名が付けられました。また、肌触りが良いサラサラなシリコンと、使って心地いいマシュマロのような柔らかさを演出する独自開発の「プリンゲル」という素材を併せて、女性に寄り添った気持ちよさを提供しています。

最近発売した使い捨てタイプの「iroha petit」は、水や寒天といった環境にやさしい素材を使用しています。他には、充電や電池交換によって長く使用できるタイプもあります。

そして、日本では医療や福祉の現場でも使用されるヘルスケア商品も展開しています。例えば、早漏や遅漏または間違ったマスターベーションで性機能障害に悩まれている方向けのトレーニングアイテム「メンズトレーニングカップ」や性機能のコントロール力を鍛える「タイミングトレーナー」、そして、妊活をサポートする男性向けの「メンズルーペ」や管理アプリなどを開発しています。また、2019年に中学・高校生の性のもやもやに応えるべく性教育情報サイト「セイシル」を公開しています。

「性」に関するテーマはまだまだタブー視されているというのが現状です。それは、日本や欧州において共通する課題だと思っています。性について、オープンに話すことができれば、精巣がんやデリケートゾーンの病気の早期発見にも繋がるので、情報交換の機会を提供する重要性も実感しています。当社の商品は、既に、医療の現場で脳梗塞などの患者さんの刺激に対する感覚を取り戻すためのアイテムとして活躍しており、ドイツをはじめ、スペインやベルギーの教授などと連携しながら、毎年調査を実施しています。

— これらの商品は海外でも販売されていますか?

茶谷悟史氏:ほとんどがそうですね。基本的に、全世界共通の商品を日本から輸入して販売しています。合計すると、日本では205種類、欧州では154種類を展開しており、日本対海外の売上比率はほぼ五分五分の状況です。海外市場の中では、米国と中国が最も規模が大きく、オーソドックスのカップシリーズが最も売れています。一方で、欧州では環境にやさしい素材を使った商品や再利用可能な商品を選ぶ人も多いですね。

— ドイツ事業はどのように発展しましたか?

茶谷悟史氏:2018年に、ドイツのデュッセルドルフに、TENGA Europe GmbHが設立されました。現在、外回りの営業スタッフも含め10名の社員が在籍し、欧州拠点から35カ国の対応をしています。オフィスを開設する前の10年間は、販売代理店に営業活動を委託していました。ありがたいことに事業が成長し、販売代理店の数も19社にまで増えました。しかし、そのうち販路の管理が難しくなった理由から、会社が必要だという認識に変わっていきました。当時、販売代理店は複数の国をカバーしていたので、商品がさまざまな価格で販売されていたという課題があり、ある程度価格の統一化を図ることが求められていました。この混沌とした状況を整理することこそが、私が入社して最初のミッションだったのです。

現在、アダルトショップへの営業活動は引き続き数社の代理店のみにお願いし、Amazonをはじめとするオンラインショップやドラッグストア、ガソリンスタンド、デパートやクリニック等の一般流通向け販路に対しては当社が直接営業をしています。ドイツにおける年間の売上は当社売上げの約4分の1を占めます。

— 欧州は性についてオープンだと感じますか?

茶谷悟史氏:スペインやフランスは、欧州の中でも特にオープンだと感じています。また、第二次世界大戦後、世界初のアダルトショップ「ベアテ・ウーゼ」が開店したことで知られるドイツは、もちろんこの分野におけるパイオニア的存在です。しかし、有名イベントをスポンサーとして支援させていただこうとすると断られたり、物件を借りようとすると難航したり、ドイツに限らず、やはりまだまだ保守的な雰囲気も残っています。

— 欧州拠点としてドイツにオフィスを構えた理由は何ですか?

茶谷悟史氏:欧州進出当初、ベルリンやロンドン、アムステルダム、パリなども検討していましたが、どこも賃貸契約に至るまでのハードルが高く、とても大変でした。最終的には、私自身が30年以上ドイツに住んでいるということもあり、前職のネットワークなどを活かして、デュッセルドルフに決めました。欧州のほぼ中央に位置しており、移動に至便と考えたことも大きな要因です。ありがたいことに、友人にも協力してもらいました。オフィスはもちろん、ブランディング全体においても、TENGAは人の裸体などを一切見せず、スタイリッシュなアプローチをしているので入居を許可していただけたのです。

— 日本本社とはどう連携しながら仕事をしていますか?

茶谷悟史氏:欧州の役割は、基本的には営業活動や市場調査などの報告が中心ですが、海外の売上の成長に伴い、業務範囲も徐々に拡大してきました。コロナ禍以前は、年2回、経営層の会議や戦略に関するミーティングに参加するための日本出張がありましたが、それもここ2、3年はストップしています。また、ドイツのオフィスでは一部在宅勤務を取り入れていました。

今年の3月にようやく一時帰国することができました。幸い、ドイツから入国する際の隔離規制が免除された日の翌日に入国したのでラッキーでしたが、当時規制が頻繁に変わっていた頃だったので、入国者の対応をしてくれているホテルスタッフまで情報が行き渡っておらず、一度隔離対応されるというちょっとしたハプニングなんかもありました。

— 日本になかなか帰れなかったこと以外にも、コロナ禍において変化したことはありますか?

茶谷悟史氏:コロナ禍でいわゆる巣ごもり需要が続き、アダルトグッズ業界は好調だと言っていただくことがあります。確かに、僅かながらも業績は右肩上がりで、安定して成長しています。しかし、アダルトグッズのオンラインストアやアマゾンなどの通販・ECサイトなどの売上はぐんと伸びた一方で、実際には、アダルトショップ実店舗が軒並み閉店してしまったり、お世話になっていた取引先の方が亡くなられたりといったショックな出来事もありました。

— 今後のビジョンや計画について教えてください。

茶谷悟史氏:まず、メインストリームの販路の更なる開拓が急務となっています。東京の有楽町阪急メンズにあるようなTENGAストアはまだ欧州にはありませんが、英国やスペイン、デンマークなどにおいては需要があることを確認しているので、ポップアップショップやコンセプトストア、アロマウェルネスなどの展開を予定しています。

また、今後も、「あっ」と言わせるような商品を開発し、驚きと喜びを追求していきます。そのためには、常に挑戦する姿勢やプロとしての意識を持ち、社員やお客様をはじめとする全てのステークホルダーを尊重し個性を認め合い楽しむということを大切にしています。情熱なしに、世の中は変えられない。私たちはそう考え、世界中の人々の性生活を豊かにし、「愛と自由にあふれる世界」を築いていきます。


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