寄稿:Euler International GmbH 共同創業者 伊藤公太、菅原伸昭
2017年10月配信ニュースレターより
弊社は、日本、中国、アメリカ、欧州の自動化業界での長年の経験を活かし、現在ロボットを中心に日本とドイツの技術を中国市場で活かす取り組みを行っています。
これまで産業用ロボットは、大量生産に適した速度や精度の向上がその発展の方向で、積極的な導入が図られたのは自動車、家電(携帯電話含む)とそれらに使われる部品業界が中心でした。しかし人口停滞、新興国の経済発展、AI技術の進化を背景に、昨今のロボット業界には以下のような変化が訪れています。
- 先進国の人手不足、新興国の人件費高騰から、ロボットを搬送以外の組立作業や、これまで「職人技」と捉えられてきた作業などにも用いる動きが増えてきている。
- システム構築のための技術者が不足しており、システム設計費用がコスト高となっている。
- 物流、食品工場など、これまでと違った分野でもロボット化の需要が増大している。
- サービス産業へのロボット導入の流れが出てきている。
- AI が急速に発展し、それがロボットのあり方を変えると考えられている。
これらの動きからロボットに求められるニーズが変化し、同時にいくつもの課題が出てきています。たとえば産業用ロボット分野の課題、そして解決策の方向性としては、次の6 点が挙げられます。
システムインテグレーションコスト:
ロボットそのもののコスト以上に、それを制御するためのシステムインテグレーションのコストが嵩みます。これらを解決すべく、直感的な操作でロボットプログラムを構築できるソフトが出始めています(例:Mujin(日)、Artiminds(独))。
対象ワークの画像認識:
画像で対象物を捉えるにはこれまでカメラとロボット座標とを合わせる調整が必要した。ただここ数年で、多くのロボットメーカーや画像装置メーカーが、自動的に調整できるソフトを搭載するようになってきています。さらに、安価な3D カメラを使い、ロボットの座標を制御する方法も広がっています。
ハンド:
人はお箸のような単純な道具を多くの用途で使いこなしますが、ロボットはジグを、大きさ、形状、表面状態などの条件にあわせて吸着、チャック、ハンドなどのように使い分けているのが現状です。そのためロボットハンド技術のブレークスルーが、ロボットの普及を大幅に加速するだろうといわれています。英知を集め、技術開発を後押しするため、たとえばアマゾン社は毎年、ロボットコンテスト「アマゾン・ピッキング・チャレンジ(Amazon Picking Challenge)」を開催、世界各地から集まった多くの技術者が技を競っています。なおこの分野に関しては、ハード面の工夫とともに、センサーを合わせた制御も鍵となるため、AI 搭載センサーなどのセンサー技術の発展により大きく進化する可能性があります。
人との協働:
産業用ロボットは事故とも決して無縁ではなく、一定のロボットには安全柵の設置が求められています。しかし、物流や食品分野で展開するには、ロボットが人の近くで作業を行う必要があります。そのため人と協調して作業を行うことのできるより安全なロボットが、大手ロボットメーカーやベンチャー企業から発売されています(例:Franka Emika(独)、Life Robotics(日)、Universal Robot(デンマーク))。今後、更に普及していくには、より安価になること、そしてティーチングの簡便さや、精度の向上が必要となります。
柔らかい対象物への対応:
ロボットは、柔らかいものを掴むのが苦手です。それは、吸着、チャック、ハンド、いずれも硬いものに合わせて作られているからです。したがって食品や繊維のピッキングは非常に苦手で、自動化が進んでいない分野でもあります。しかし最近は、柔らかいものを掴むことに特化したハンドも出てきました(例:Soft Robotics Inc.(米))。
ロボットが移動する際の対象ワークとの位置関係:
これまで固定されることが当たり前だったロボットも、協働ロボットの登場でロボット自体が動く用途への期待が高まっています。そのためには、自らと対象物との位置関係を認識する画像処理を中心とした技術が必要となります。これらの技術の向上とともに、レイアウト変更が難しい中小製造業や物流倉庫などでの活用が見込まれています(例:IAM Robotics(米)、Nextage(日))。
近年では、産業用ロボットのみならず、サービス産業へのロボット導入が進展しつつあります。それとともに、サービスロボットへの展開に向けた課題も明らかになっています。
ロボット自身の位置の認識:
工場や倉庫という従来の設置場所から、病院やショッピングモール、街中など広い範囲で動くため、自分の位置を広範囲で確認する必要があります。そのためには、GPS 機能を利用し自己位置の推定を行うと同時に地図を生成する「SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)」と呼ばれる技術を活用し、ロボットが自身の位置を認識する必要があります。
足:
人が生活するスペースは、当然のことならが人が歩くのに適した構造となっており、ロボットには適していません。そのため足のあるロボットが開発が進められています(例:Boston Dynamic(米)、Agility Robotics(米))。
クラウドロボティクス:
カメラの位置がロボットから離れている場合に無線でロボットを制御する方法が考えられています。また制御プログラムをクラウド上に置くことによって、多くのロボットを一元管理することが可能になります。次世代移動通信システム「5G」の実用化とともに、実現が期待されています。
耐環境:
ロボットの普及に伴い、耐環境、耐久性の課題が出てきます。ベンチャー企業により開発されたロボットも、耐環境、耐久性を持たせ大量生産を行う段階では大手製造業の助けが必要になると思われます。
安全への対応:
AI の活用による衝突回避機能が組み込まれていたとしても、人の方からぶつかるような事態は避けられません。これこそが、病院内で簡単な案内ロボットや薬品搬送ロボットを導入しにくい理由です。また、PL 法のリスクもありますから、何が許容され何がされないのかという基準や規制の策定が必要です。さらに万が一に備え、サービスロボットの使用に付随する事故がカバーされる保険の整備が急がれます。
多様な世界への適合:
工場内とは異なり、街中や家庭で使われると環境が次々に変化します。与えられた環境から変化が生じた際にどのように適応して次の行動を決定していくのかということは大きな課題の一つです。人が無意識に行動し、また決定している部分を、どのように定義し、また制御するのかという課題です。
曖昧な指示の理解:
同様に、「あれ任せたよ」などという曖昧な言葉を汲み取って行動を起こすことは、ロボットにはできません。
弊社では特に、このような過渡期にあるロボット関連技術の中国市場での展開に重点を置いていることから、以下に簡単に日本と中国における課題と今後の展望をまとめたいと思います。
日本は産業用ロボットの世界をリードしてきました。ただ、上述のように、ロボット業界における昨今の課題はこれまでの産業用ロボットの発達の方向とは異なったところにあるため、新しいロボットの世界で必ずしも優位とはいえません。
その一方で日本は、①部品などの要素技術がすぐれており、柔軟に供給できる体制が大企業・中小企業ともにある、②一般の人々がロボットに対して親しみを持っており、感情的に受け入れやすい、③ハードとソフトの融合と言う面倒な技術的課題にコツコツ取り組む気質があるなど、ロボット開発で有利な点がいくつもあることも事実です。
翻って中国には自動化の膨大な需要があります。同国には需要のみならず、①産業用ロボットが比較的安価に開発可能、②先に述べた産業用ロボットの課題を解決する技術の導入に積極的、③政府そしてHuawei 社などの大企業主導による工業分野の自動化、デジタル化、ロボット化の推進、④AI の発展に不可欠なデータが豊富であり、またデータの共有を促す風土、などロボットの開発と展開に有利な環境も揃っています。このことから、産業ロボットの次の発展の舞台は実質的に中国になると考えています。
中国では、サービスロボットの導入も非常に活発です。その背景には、サービスロボットに対する消費者の抵抗が少ないこと(親しみがあるわけではない)、また深圳を中心にハードウェア関連の起業家が多く、部品、エンジニア、そしてリスクマネーなどのリソースが豊富にあることなどが挙げられます。
日本とドイツの誇る技術を、ロボットの発展の舞台となるだろう中国市場で活かしていけるよう、今後、これらの分野に強みを持つドイツ側パートナーとの更なる連携を図っていければと考えております。
