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コンセプト開発に関する新たな取り組み

パナソニック・ヨーロッパ アプライアンス欧州生活研究所 所長 田中正昭 [所属は3月末時点のものです]

本稿は2016年4月配信のDJWニュースレターに掲載されたものです

2014-07-04, 13:21

パナソニックは2009年に白物の代表格である冷蔵庫、洗濯機の欧州市場への本格的な進出を開始し、その後、ケトル、トースターやコーヒーマシンなどの小物調理機器、IHホブやオーブンなどの本格調理機器事業へと次々に参入してきました。2009年以前に参入済みのエアコンや電子レンジと合わせると、主要な白物家電の市場参入を果たしたことになります。これにより、白物家電の総合メーカーとして欧州で事業を展開することになりました。

このような背景の中、弊社は2009年の白物事業の欧州への本格参入に時を合わせて、現地に密着した商品づくりを行うことを目的に、生活研究拠点となる研究所をドイツに開所しました。以来、欧州全域の生活研究をカバーし、研究結果をベースに中長期的視野にたったコンセプト立案や商品企画のサポートを行っています。

しかし、欧州と一言で言っても各国ともに独特の文化を有し、生活スタイルも大きく異なります。

そこで、ドイツにおける弊社の関連市場にフォーカスしてみると、ドイツは他の先進国の欧州諸国と比して、経済的には良好で購買力が高いが、比較的保守的な市場であると言えます。スマートフォンを例にとると、欧州の先進5ヶ国において、ドイツは導入初期の普及率は非常に低く、その後、経済力を背景に増加するものの、2012年末の普及率は、スペイン66%、UK64%、フランスとイタリア53%、ドイツ51%と他に比べて未だ低い率にとどまっています。関連する他の一部の商品やサービスにおいても、新規に市場導入された場合には同様の現象が多く見受けられるのです。

また、白物のような生活密着型で、その中でも高額な商品類においては、その保守的な傾向が更に顕著となります。これは、消費者が慣れ親しんだ商品を好み、新しい機能や価値の享受を敬遠する傾向にある事を示し、先進的機能や価値がニーズに合致していたとしても、直ちにその商品がヒット商品になる訳ではなく、市場に浸透するまでには長い時間を要する事を意味します。

例えば、ある商品の高額モデル購入者の多くは、検討開始の初期段階で、過去の経験則から耐久性や品質が高く信頼のあるブランドを数ブランドから数十ブランド選び、その中で本質機能や省エネを中心に詳細に検討し、購入に至ります。そのため、早期段階で、商品の機能にかかわらず、耐久性や品質で実績を誇る(長い市場実績がある)現地メーカーが選ばれ、参入間もないメーカーがドロップされるケースも珍しくありません。つまり、高い技術力や先進的な機能で新たな価値を提供できているメーカーであっても歴史の浅いメーカーは苦戦を余儀なくされているのが現状なのです。

このような市場環境の中で、弊社は当初、AV商品で培ってきた高品質なブランドイメージと、グローバル的にも高水準の省エネルギー化技術、先進的な技術をベースにした新しい価値を武器に、比較的高額な商品レンジでビジネスを行ってきました。

ところがある調査で、特定の白物商品においては、AV商品で培ってきた高品質ブランドのイメージがほとんど影響を及ぼすことなく、別物と捉える傾向にあるという結果が出たのです。これは、ドイツの有名な白物メーカーであるミーレ、ボッシュやジーメンス等がAV商品を取り扱っていない事も、AV商品から白物商品のブランドを連想することへのバリアになっているものと思われます。

この調査結果から、これまでのブランドイメージを利用できない当該商品において、白物家電の総合メーカーとしてドイツ市場で歴史の浅い我々の新しい価値提案を、如何にして早期に市場に享受させるかが最大の課題であり、解決策としては、市場での信頼を長期的視野で獲得するしかないように思われました。

しかしながら、弊所が最近実施した複数の消費者調査結果から、ある方法によって、この課題を比較的早期に解決できる可能性があることが明らかとなったのです。この方法では、特殊なターゲットを見つけ出し、彼らにあったコンセプトや商品を企画開発することで、その分野でのブランドの認知度を早期に市場に浸透できるだけでなく、商品自体の市場への浸透をも加速できると考えられます。

つまり、一部のターゲットをトリガーに、多数の保守的な消費者の生活スタイルの特徴を利用して、新規の商品やブランド、ビジネスを浸透させようとする試みであり、少なくとも欧州の家電分野では、これまでに前例を聞いたことがない方法です。

これを導き出す上で、最も重要であり難しいのが、ターゲット選定です。これまでのデモグラフィック、ライフステージ、ソーシャルクラス、趣味趣向や行動などの違いでセグメンテーションするのではなく、目的とする商品群に関連のある要素を交えた新たな手法でセグメンテーションを行うことで、ターゲットの選定を行っていきます。

このようにして導き出されたコンセプト開発に関する新たな取り組みについては、現在の所、未だ効果確認のプロセスが進行している段階ですが、今後、欧州市場にてその効果が認められたならば、他の先進国市場や商品分野にも適用を試みビジネス拡大を図っていきたいと考えています。

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