DJW理事長 ゲアハルト・ヴィースホイ
スタートアップ比較:ドイツと日本
スタートアップは、経済においてますます重要な役割を果たすようになっています。イノベーションを加速させ、新たな雇用を創出し、グローバル市場にダイナミックな動きをもたらしています。ドイツと日本はここ数年の間に国際的なスタートアップの舞台における主要なプレイヤーとしての地位を築いてきましたが、両国のエコシステムは、多くの点で類似する一方、大きな違いも見られます。
多くの類似点
ドイツも日本も、テクノロジー志向のスタートアップを重視しています。両国とも、インダストリー4.0、人工知能(AI)、グリーンテックといったキーセクターが中心となっており、焦点となる技術が補完しあうことが多い点も特徴です。そのうえで、ドイツではeコマースやフィンテックといった革新的なビジネスモデルが支配的である一方、日本はロボティクス、IoT、医療技術に特に力を入れています。
もうひとつの共通点は、国からの支援です。両国政府とも、スタートアップ支援のために、数々の資金援助プログラムを始動させています。ドイツにはたとえば、政府が最近発表した「WINイニシアティブ」のようなプログラムがあり、2030年までに約120億ユーロの資金が新興企業に投じられる予定です。日本でも同様に、「J-Startup」プログラムが立ち上げられています。日本貿易振興機構(JETRO)は先月、日本のスタートアップ105社がグローバル・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(GSAP)に選定されたことを発表しました。同プログラムは、日本のスタートアップ企業の海外進出を支援する目的で、JETROと経済産業省(METI)などが2020年にスタートさせたものです。
両国の大学や研究機関も重要な役割を果たしています。いずれも、多くのスタートアップを生み出し、技術の進歩を大きく飛躍させるイノベーションセンターとしての機能を果たしています。
……その一方で相違も
多くの点で類似しているにもかかわらず、両国のスタートアップ・エコシステムには画然とした違いが存在します。重要な視点のひとつは、リスク許容度です。起業は長期的視点に立って計画するものという、どちらかといえばリスクを避ける文化がドイツでは今なお根強いと言えます。とはいえ、近年では、特にベルリンを中心に、ますます大胆かつ革新的な起業文化が花開いています。他方、日本はいまなお、リスク回避の傾向が強いと言わざるを得ません――スタートアップを後押しするイニシアチブが必要とされる理由のひとつもここにあります。
加えて、国際展開と市場規模の面でも違いが見られます。ドイツはその地理的なポジションから恩恵を受けています。ヨーロッパ大陸の中央部に位置する地の利を活かして、ドイツのスタートアップが早い段階から国際的な成長戦略を追求するのは珍しいことではありません。それに対して日本のスタートアップはまず、人口規模の点からも相応の可能性を持つ国内市場に重点を置く傾向が見られます。このためどうしても、日本企業の海外進出は、ドイツ企業に比べて遅れることが多くなります。
強力な国際ネットワークとグローバル人材の流入がドイツをスタートアップにとって魅力的な場所にしているものの、官僚主義と深刻化の一途をたどる熟練労働者の不足が大きな課題となっています。ひるがえって日本は、高齢化とスタートアップ・エコシステムの国際化の遅れの問題に直面しています。
未来の展望は?
ドイツと日本は今後も、それぞれのスタートアップ・エコシステムをグローバルな展開に適応させていくことが求められるでしょう。直面する課題は異なれど、両国は自国のスタートアップ企業をグローバルプレイヤーへと成長させていくポテンシャルを有しています。的を絞った改革、およびより一層国際的な協力に注力することにより、ドイツと日本は世界のスタートアップ・エコシステムにおける地位を固め、それを拡大させていくことができるはずです。今後数年間は、両国のイノベーションの力を持続的に強化するうえで重要な意味を持つ時期となるでしょう。
私たち日独産業協会(DJW)もまた、日独相互のスタートアップ・エコシステムへのアクセスを容易にすることで、貢献を果たしていきたいと考えています。現在進行中のインフォマッピング・プロジェクト「スタートアップ・マッピング」へ、DJW会員の皆様もぜひご参加・関与ください!