DJW理事長 ゲアハルト・ヴィースホイ
自由貿易2026:EUメルコスール協定が示すもの、日EU協定が証明するもの
南米南部共同市場(メルコスール)と欧州連合(EU)の間の自由貿易協定(FTA)の締結は、「単なる通商政策上の出来事」以上の意味をもちます。世界中で保護主義的な反応が目立つ時代における、ひとつのシグナルだととらえることができます。2026年1月の署名を経て、5月1日より同協定の暫定貿易協定(iTA)の適用が開始されたことは、新たな段階の始まりを示すものです。世界では現在、巨大な経済圏が段階的に結びつきを強めていく一方で、他の地域では関税や産業政策を通した分断が社会的に再び容認されるようになっています。
このような状況にあるからこそ、特に日独経済関係を考えるにあたっては、自由貿易協定は現実的にどのような成果をもたらすことができ、その成功はどのように測るべきなのか、これらの点について根本から検証し直すことには価値があります。実際の運用にともない、単一かつ大きな効果がもたらされることはまずありません。注目すべき基準として、第一に関税やその他の障壁の撤廃、第二に共通の基準とルールの予見可能性、第三に信頼できる枠組みの中でバリューチェーン(価値連鎖)を継続的に発展させていく能力、の3点が挙げられます。
今、メルコスール協定が示すもの
EUメルコスール協定においてEUがとりわけ重視しているのは、貿易障壁の撤廃、公共調達へのアクセス、工業製品にかかる高率関税の軽減、そして重要資源へのアクセスといった経済的安全保障の側面です。その一方で、農業や環境および社会基準をめぐる政治的議論が今なお継続しています。これは、こうした協定につきものの典型的な利害対立ですが、実際の運用と受容に長期的な影響を及ぼします。
日EU・EPAがすでに証明するもの
まさにこの点において、2019年2月1日に発効となった日EU経済連携協定(EPA)との比較が有益だと考えます。発効からこれまでの展開を振り返ることで、現代的な協定がもたらし得る成果を可視化することができます。2018年(発効の前年)から2025年にかけてEUと日本の間の貿易総額(物品・サービス)は20%以上の増加を見せました。
そのなかでも、サービス貿易の伸びが著しく、2018年に433億ユーロだったサービス貿易総額(輸出入合計)は、2025年に688億ユーロに達しています。加えて、EPAは「従来的な」関税協定ではなく、より広範な範囲をカバーする規則体系となっており、完全に実施されれば、EUと日本双方の関税品目の大部分が自由化されることになります。
さらに、現代の価値創造の連鎖はデータの移動なくしてまず成り立ちません。2024年7月1日に、国境を越えるデータの移転に関する新たな規定がEPAに追加されたことは、企業にとって実務上の前進であると同時に、デジタル保護主義に対するひとつのシグナルでもあります。以上のように、協定の成否は個別の輸出統計だけで測られるものではなく、ルールの予見可能性、法規制や基準の確実性と安定性、行政手続きの簡素化、そして企業が新たに手に入れた可能性という「余地」を実際のビジネスモデルへと転換できるかどうかによって評価できるのです。
2026年、日本とドイツへの示唆
ドイツと日本の企業にとって、2026年の通商政策上の課題は、何にもまして「強靭性」になると考えています。サプライチェーンに一層の「耐性」が求められる一方で、コスト圧力は高い状況が続くでしょう。こうした環境において、自由貿易協定は戦略的な手段となります。もちろん万能薬にはなりませんが、価値創造の多様化、投資の安定化、そして貿易摩擦の緩和のための安定した枠組みとして機能します。
欧州がメルコスールとの協定に向けて踏み出したことは、EUが貿易圏の確保とパートナーシップの拡大を図っていることを改めて浮き彫りにするものです。日独経済のコミュニティに対して、これは二重のメッセージを発しています。日EU・EPAはすでに、ルールに基づく市場の開放が実際に効果をもつことを示す確かな指標を提供しています。特にサービス、標準化、デジタル環境整備の分野においてその傾向が顕著です。新たな協定も、両国の企業が実務面での対応を進めていくにつれ、その真価を発揮することになるでしょう。
2026年の自由貿易は、もはやイデオロギーというより立地戦略としての要素が顕著になっています。日EU・EPAは、現代的な協定が測定可能な成果をもたらし得ることを示しています。EUとメルコスールの協定は、保護主義的な姿勢に対抗する新たなシグナルを打ち出しています。今後は、新協定により生まれる可能性という名の「伸びしろ」を企業が一貫してビジネスに結びつけられるかが重要となります。
