DJW理事長 ゲアハルト・ヴィースホイ
欧州と日本:戦略的価値としての信頼
世界経済は今、激変の最中にあります。数十年にわたり、効率性、コスト優位性、開かれた市場を特徴としてきた世界貿易の流れは、地政学的現実、さらには関税などの通商政策上の障壁によって上書きされようとしています。そして、フレンドショアリング(ルールや価値観を共有できる同盟国、友好国との間でサプライチェーンを構築すること)、レジリエンス、戦略的パートナーシップが今日の議論の中核となっています。このような環境において、欧州内で、戦略的重要性がますます高まっている関係――対日関係に他なりません――に注目が集まっています。
欧州は近年、経済的にも政治的にも、西側諸国との結びつきを強めています。米国との貿易は2020年以降大幅に拡大し、欧州と米国の間の海外直接投資も同様です。これと並行して欧州は、地政学的な懸念が想定される対象国の存在を考慮に入れ、意識的に的を絞った多角化戦略を推進しています。このような背景から、日本は欧州、その中でも特にドイツにとって新たな戦略的重要性を持つに至り、またパートナー国としての重みも増しているのです。
日本は経済力、技術力、革新力の象徴であるのみならず、安定性、法の支配、ルールに基づく国際協力を体現する国でもあります。多極化へのパワーシフトが起こる世界において、これは決して自明のことではありません。欧州にとって信頼できるパートナーとしての日本の役割は、数字からも読み取ることができます。デロイトが発表した報告書によれば、欧州の対日輸出は、2035年まで年平均4%以上の成長率で増加すると見込まれており、これは国際的にみても特筆に値する数字です。
日EU関係にまつわる明確な政治的判断
このような展開は、偶然の産物ではなく、日本と欧州、両サイドにおける明確な政治的判断の結果なのです。日EU経済連携協定(日EU・EPA)は、双方が有する、開かれた市場と公正な競争に対する共通認識の表れであると言えます。地政学的な分断が進む時代にあっても、共通の価値観に基づいた経済協力が可能であることを示しています。
このことは、欧州企業、その中でも特に中堅規模の同族経営企業(ファミリービジネス)に明白な戦略的展望を与えるものです。日本は、高度に発達した市場へのアクセスだけでなく、技術協力、未来を先取りした分野への投資、レジリエンスの高いサプライチェーン構築のためのプラットフォームを提供します。
欧州はこの日本とのパートナーシップを、世界の他の地域から欧州を守るための防波堤としてではなく、長く信頼に足る経済関係のネットワークにおける自律的な基軸として、さらに深化させていくべきだと考えます。