DJW理事長 ゲアハルト・ヴィースホイより
エネルギー危機:寒い冬はやってくるのか?
日本とドイツにおけるエネルギー危機
世界情勢にまつわるニュースはこのところ留まるところを知らない状況と言えます。サプライチェーンに係るボトルネックや依然として深刻なコロナ感染など多くの問題点に加え、今年はロシアがエネルギー輸出を民主国家に対する武器として意図的に利用し始めたことから、エネルギー危機が新たな問題として浮上してきました。日本では、液化天然ガス(LNG)の価格が昨年8月から約200%上昇し、オランダで取引される天然ガスの価格も約700%に跳ね上がっています。エネルギー価格の顕著な上昇は、輸入コストの上昇により、対外貿易収支にも既に顕著に表れています。ドイツでは、2021年上半期の1550億米ドルに対し、2022年同期の貿易黒字は370億米ドルに減少しました。 日本では、2021年上半期はまだ60億米ドルの貿易黒字を計上していたのが、2022年同期はほぼ650億米ドルの貿易赤字を記録するに至っています。
従来型エネルギー供給の復活
ドイツでは天然ガスの備蓄量が少ないため、これから冬にかけて多くの家庭で暖房の消費抑制と短期間の停電すら余儀なくされる恐れがあります。現在、稼働中の原子力発電所の稼働延長が盛んに議論されていますが、一方で石炭火力発電所の利用拡大についてはすでに決定されている状況です。また、経営不振に陥ったエネルギー企業を金融面から支援するための法的枠組みも整備されました。7月末、ドイツ政府は経営不振に陥ったエネルギー企業Uniper社に対し、数十億ドル相当の救済策を決定しました。今年3月に首都圏でブラックアウト寸前に至った危機を受け、日本では原子力発電所の再稼働を求める声も強まりました。
代替可能エネルギーとしての風力発電所?
しかし、一方でより持続可能な再生可能エネルギーもあります。ドイツでは、今すぐにでも必要とされる風力発電所増設に係る認可と建設が何年も前から議論されています。風力発電所の建設をスピードアップするための枠組み整備は、たとえば、風力発電指定地域の2%への倍増、連邦各州に対する実施義務を伴う建設計画、認可手続きの迅速化等々、その他措置も含めて最近になって改善されてきています。しかし、それでもなお風力発電所の拡張には、様々な抵抗や官僚主義的な障害がかなり残っているようです。このため、今年上半期における陸上での風力発電所増設は前年同期比でほとんど横ばい状態となっています。
日本でも、洋上風力発電の導入により、2020年比3倍以上の電力を生み出すことができると試算されています。2021年末時点で、洋上風力発電所建設のためのオークションがいくつか成立しています。海外からの参入も含め、今年は多くの投資家も見込めるため、計画の加速が期待できそうです。
液状ガスの輸入
ドイツでは、代替エネルギーの拡大に加え、液化天然ガスの輸入も推進しています。全体として、LNGは世界の天然ガス消費量の約14%を占めています。一方、ドイツでは5つのLNGターミナルの建設が決定しており、少なくとも1つのターミナルの稼働は2022年末に予定されています。世界最大のLNG輸出国であるアメリカとカタールは、ドイツにとって重要な供給国になるはずですが、とはいえ世界におけるLNGの供給自体は限られたものとなっています。
エネルギー危機とエネルギー転換の加速
その一方で、現在の原子力、石炭、ガスの活用は、気候を犠牲にしていることも忘れてはなりません。この不安定な時代であるにも拘らず、気候変動はカーボンニュートラルに向けた活動で一息つくことを許さず、それどころか熱波や干ばつなどの異常気象を通じて、現在我々が取っているエネルギー政策がいかなるリスクを招くかをまざまざと示しているのです。それゆえ、この危機は日本とドイツの再生可能エネルギーへの移行を加速させ、エネルギー供給源の多様化を図り、気候環境を保護するためのチャンスとさえ言えるかと思います。