DJW 理事長 ゲアハルト・ヴィースホイ

チャンスとしての人口動態変化

2019-04-11, 00:00

ニュルンベルクと東京で開催される本年のDJWシンポジウムでは、日本やドイツのような国にとって喫緊の課題となっている少子高齢化の進展と人口構造の変化をテーマに取り上げます。ただし、悲観論ではなく、新たなビジネスモデル、イノベーション、そしてテクノロジーのチャンスとして、人口動態の変化に光を当てていきたいと考えています。

人口構造変化の進み方は非常に緩慢ではあるものの、とりわけ、一国の経済の長期的な成長トレンドが人口増加と生産性上昇によって規定されることを鑑みるならば、その影響は計り知れないものがあります。例えば、1991年以降のドイツ経済の年平均成長率はプラス1.4%でしたが、そのうち、人口の増加要因が平均0.1%であったのに対し、生産性の伸びは同1.3%寄与しています。今後数年のうちに、社会の高齢化を理由に、人口増減要因の寄与分は徐々にマイナスへ転じていくことになるでしょう。国際労働機関(ILO)の専門家は、ドイツの労働力人口は今後10年にわたり、毎年平均約0.4%減少すると試算しています。それはすなわち、生産性上昇率がこれまで通り年1.3%であるならば、ドイツ経済の成長トレンドが0.9%へ下押しされることを意味します。更には、高齢世代は新たな技術がもたらすリスクの方をチャンスよりも重要視する傾向があることから、社会の高齢化により生産性の伸び自体も減少していくという説もあります。

幸いなことに、データからは異なる姿が読み取れます。専門家によれば、若年世代に比べ高齢者人口の増加が著しい国々では、1990年から2015年にかけ生産性上昇率が加速したことが明らかになっています。その背景として考えられる説明は、企業が、若年労働力不足をロボットやその他の技術で補うことを強いられたからだというものです。高齢化が急速に進む国々で、ロボットの導入が顕著に増加していることがそれを証明しています。

さらに本年のDJWシンポジウムでは、中小企業が特に「デジタル革命」のトレンドや、「新しい働き方」という要素からいかに恩恵を受けることができるかという観点からも議論を行います。但し、これらの流れから恩恵を受けるためには、良好な投資環境が不可欠です。新たなデジタル世界は、取りも直さず、資金の調達や公的支援に対する高い需要をつきつけます。新たなテクノロジーへの投資の多くは企業毎にカスタマイズされたものであり、融資を受ける際の担保としての価値を持ちません。そのため、今後の新技術の投資にはこれまでよりもはるかに大きな自己資金による調達、そして恐らくは公的資金による支援が大きな比重を占めざるを得ないでしょう。更に言えば、高い生産性上昇率の達成には、最新のインフラ環境と教育された優秀な人材の存在が必要不可欠な前提条件となります。公的資金による支援を受けた基礎研究レベルの水準如何が競争力の優位性に決定的な影響を及ぼす、との研究結果も発表されています。

以上をまとめると、新たなテクノロジーは、日独双方の社会にとって人口動態の変化によるマイナスの影響をチャンスへと変換する可能性を秘めています。シンポジウムを通し、この点において僅かながらでも貢献を果たしていければ幸いです。

ゲアハルト・ヴィースホイ(Gerhard Wiesheu)
B. Metzler seel. Sohn & Co. AG 代表取締役
DJW 理事長
info@djw.de
http://www.djw.de
ゲアハルト・ヴィースホイ(Gerhard Wiesheu)
B. Metzler seel. Sohn & Co. AG 代表取締役
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