DJW理事長 ゲアハルト・ヴィースホイより
日本とドイツにとってのアメリカ新大統領の意味
日本とドイツにとって、アメリカの新しい大統領が意味するものとはいったい何なのだろうか。ジョー・バイデン新大統領は既に大統領選の最中から、伝統的同盟国と再びより緊密に、かつより建設的に協力関係を構築したいと宣言していた。これにより、世界規模で貿易摩擦がさらに悪化する懸念はもはやなくなったように思われる。しかしながら、新しい大統領も、またドナルド・トランプ前大統領のようにアメリカの利益を一貫して優先するであろうと思われる。何故なら、アメリカは過去数年の間、基本的に保護貿易主義・孤立主義の方向へ厳然と社会変革を遂げていったように思われるからである。さらに、ドナルド・トランプ氏の時には „America First“が叫ばれていたが、ジョー・バイデン氏に政権が移ってからであっても、 „Made in All of America“ と謳われているのである。それどころか、民主党は基本的には人権問題を非常に重要視しているため、米中間の貿易、技術、そして地政学面での衝突は、バイデン大統領下でむしろ一層深刻な状態になる可能性すらあるのである。これにより、欧州および日本の企業が、今後より頻繁に両国間の狭間でどのように立ち位置を取るべきか苦悩することにもなり兼ねない訳である。
確かに、ジョー・バイデン氏主導の政府には、ほぼ完全に麻痺状態となってしまった世界貿易機構の改革の促進、さらにEUとの貿易協定締結の前向きな進展が期待できるかもしれない。しかし、更なる譲歩を迫ってくることも想定される。その際には、EUはアメリカが強要してくる条件を拒否できるような立場にはない。というのも、もう1つの可能性として、より緊迫した貿易面での紛争が遅くとも次の共和党大統領政権下では起こり得ることが想定されるからである。それに比較すれば、建設的な交渉過程において譲歩することの方が、EUにとってはより耐えやすいものであることは間違いないであろう。
日本とEU、またドイツにとっての中期的課題は、輸出に依存しない内需の強化と自己防衛の枠組みの構築である。9月まで政権を担っていた安倍晋三前首相がドナルド・トランプ氏と最初から親密な関係を築き上げることが出来ていたことにより、日本は過去4年間に亘り便益を得ていたと言える。それによって、ドイツに比較すれば、トランプ氏の保護貿易主義的な脅しの標的となりにくかった。
しかしながら、共に輸出に依存する日独両国にとって、今後より一層相互の緊密な協力関係を築いていくこと、そして同じように自由貿易体制に基盤を置いているカナダのような国々と共に、米中両国による強大かつ支配的な政治・経済圏に対抗するバーゲニングパワーを確立することが、これまで以上に重要な課題となっている。従って、日独両国としては、益々チャレンジングな状況になりつつある世界的情勢に備えた態勢整備を着実に進めていくために、これからの貴重な時間を活用することが肝要なのである。