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チームラボ: 「アートによって、人間と世界の新しい関係を模索したい」

J-BIG 1月号:ビョルン・アイヒシュテットとニーナ・ブラゴイェウィッジと大浦詩織カミラによるインタビュー

DJW協賛会員Storymaker GmbHによる記事

2022-03-10, 15:53

アート集団「チームラボ」はここ数年、デジタルやテクノロジーをつかった型破りなアプローチを通して、国境を越えてアートシーンを盛り上げてきました。そんなチームラボが、2024年にハンブルクに新設予定の「デジタルアートミュージアム」に常設展「チームラボボーダレスハンブルク」をオープンし、ついにドイツに上陸します。チームラボのメンバーのひとりである工藤岳氏に、身体ごとアートに没入できる、境界のない世界についてお話を伺いました。

—2001年の設立から、2018年に東京に開設された常設展「チームラボボーダレス」まで、どのように発展してきましたか?チームラボをまだよく知らない読者向けに説明してください。

工藤氏:チームラボは「人間にとって世界とは何か」ということを、何か作品をつくっていくプロセスを通して、少しでも知っていけたらいいなと思い、作品をつくってきました。

チームラボは、2001年、ちょうど、インターネットが出てきて、デジタルの社会になっていくなかで、なにか新しい時代に、新しい方法論で、なにかを表現していく。デジタルの世界は、人間を一体どう変えていくのか、そういうことにも興味があって、チームラボという場所が生まれました。

自然と自分の間に、自分と世界の間に、本当は連続している関係にもかかわらず、何か、そこには境界があるかのような感覚を、人間は無意識に持っています。本当は連続しているはずなのに、なぜそう思ってしまうのかにも興味がありましたし、どうやったら、そういう感覚を、連続したものに変えていけるのか、のようなものにも当時すごく興味を持っていました。

チームラボは、チームでつくる、つまり『集団的創造』の場です。実験の場に身を置きたいと思ってつくりました。アーティスト名もまさに『チームによるラボ』、実験の場です。創造のための集団的実験を繰り返すプロセスが重要だと思っています。そしてカッコいい、悪いといういまの価値基準には収まらない、新しい美の領域をつくりたい。作品を見た人の価値観が変わったり、人々の行動が変わったりすることが起これば本望です。

2001年の設立以来、デジタルテクノロジーを使った新しいアートを創っていて、デジタルによる新たなアートを創ることで人類の価値観を変え、人類を前に進めたいと、起業当初から考えていました。

しかし当時、私たちが創るアートで、どのように、経済的にチームを維持するかは想像できていませんでした。一方でデジタルテクノロジーと創造性の力を信じていたし、純粋に好きでした。私たちは、とにかく、ジャンルなどを意識せずに、新たなものを作り続けたかったのです。

経済的にチームラボを存続させるために、ウェブや、システムのような、ソリューションといってクライアントからの受託の仕事をしていました。社会的にはソリューションの仕事のほうが評価されて、お金になる一方で、アートは評価されず、まったくお金にならない、そんな状況がしばらく続きましたが、2011年、現代美術家の村上隆氏に、「世界で発表しなさい」とアドバイスをいただき、台湾・台北に持つギャラリーで、初めての個展を開催したことが、今の国際的なアートワールドでアート活動への大きなきっかけとなりました。その台北での個展が、現地のキュレーターの目に止まり、国際芸術祭のヴェネツィア・ビエンナーレの関連企画展への出展につながり、その翌年の2012年には台湾国立美術館で大規模な個展を開催、2013年にはシンガポール・ビエンナーレにメインアーティストとして参加、2014年には、ニューヨークのペース・ギャラリーから、オープニングエキシビションの展示を依頼され、今の国際的な評価を得ることへとつながっていきました。

「チームラボボーダレス」がオープンするに至るまでに、たくさんの試行錯誤や議論がありました。その中で、次第に、作品群が、表現したかったものに近づいているという実感も少しずつ出てきました。2016年には、ペース・ギャラリーの主催で、シリコンバレー北部端のパロアルトで「teamLab: Living Digital Space and Future Parks」を開催しました。これは、ペース・ギャラリーにとっても、チケット制の展覧会という初の試みでした。作品に没入する形の展覧会のチケットが実際に売れるのを目の当たりにするのは、不思議な感覚でした。その後、ロンドンにて「teamLab: Transcending Boundaries 」という展覧会を開催したところ、2ヶ月間という会期にもかかわらず、チケットは数日で完売しました。その頃から、さらに大きな規模でも実現できるのではないかという期待を抱くようになったような気がします。そして、パリの「teamLab : Au-delà des limites」という展覧会を経て、東京に常設展「チームラボボーダレス」をオープンしました。

チームラボのインスタレーションは、従来の美術館とは大きく異なります。チームラボを見たことない人に対して、作品はどう説明しますか?

工藤氏:チームラボはアートによって、人間と世界の新しい関係を模索したいと思っています。例えば、「チームラボボーダレス」を例に挙げて、ご説明させていただくと、作品の境界(大きさや場所)が、明確ではなく、作品が、他の作品とコミュニケーションして、作品自ら他の作品がいない場所へ移動して、その場にあった形に変わったり、他の作品と混ざったり影響をあたえたり、他の作品のために作品自ら場所を空け出て行ったります。

来場者は完全に没入し、作品と交流することができます。そして、人々と世界との境界を曖昧にしていきます。人々が、作品の一部になり、人々によって作品が変化していくことによって、自分と他者との境界も曖昧にしていきます。

もう少し、説明すると、自分と、例えば作品との関係性でいえば、その作品を通して自分と世界というものが、境界がないような体験であったり、自分と世界との境界がないような体験を作りたいといつも思っています。

一個のアートそのものも、境界みたいなものがありません。そうした境界がないアートを通して、世界というものは、みんなが思っているほど境界がないってことを、体験させたい。あとは、そういうことを通して、自分の存在や、他者が存在していることすらも、アートの一部だという体験を作りたいのです。その体験を通して、何か自分と他者との関係、自分と他者との関係も、境界みたいなものも曖昧にしていきたい。

そこに存在している自分とは関係ない他者も、作品の一部になることによって、もしくは、その他者の存在によって作品が変化していくことによって、自分と他者との関係みたいなものも、考え直したいと思っています。

テクノロジーやデジタルを使って、チームラボはどのように境界のない世界を模索しているのでしょうか?

工藤氏:これまでは、作品というのは作家の思いが物質でできたモノに凝縮されていましたが、デジタルテクノロジーによるアートは物質から分離され解放されたので、作家の思いは、モノではなく「ユーザーの体験そのもの」に直接凝縮させていくという考えでつくっていくことができるのではないかと思っています。そうなったときに、モノを博覧的に並べるのではない、もっと最適な空間や時間のあり方があると思いました。人間は、動くことが、より自然ですから、その動く人々の体験に直接凝縮させることが作品であるならば、作品自体も人々と同じように動いていくような作品群になっています。

「チームラボボーダレス」では、境界のない体験と世界を実現することを試みています。作品と作品の境界、人々と作品の境界、自分と他者との境界など、皆が当たり前のように考えているような境界を超え、様々な作品と人々が一つの空間で一体となり、影響し合うことを目指しています。境界のない作品は、部屋から出て通路を移動しはじめ、他の作品とコミュニケーションし、時には他の作品と融合します。作品は、他の作品との境界がなく、そして、人々との境界をなくし、人々を世界に没入させ、人々の他者との境界を連続的なものにしていくだろう。そのような作品群による、境界のない1つの世界です。

もちろん、テクノロジーによるインタラクションによって、参加型になっています。しかし、チームラボの考えるインタラクションは、これまでのインタラクションと少し違うかもしれません。通常、インタラクションとは、ビデオゲームもパソコンもスマートフォンもインターネットもそうですが、自分が世界に直接意思を持って、介入したり操作したりするというものです。しかし、チームラボが重要視していることは、インタラクションと、アートを結びつけることで、自分が介入したり操作したりする意思があるかないかは関係なく、同じ空間にいる他者の存在そのもので、作品が変化するということです。そして、その他者の存在による作品の変化が美しければ、他者の存在は美しいものにもなりえるのです。少なくとも、これまでのアートでは、鑑賞者にとって他者の存在は、邪魔な存在だったと思うのです。展覧会で人がいなければ、人は必ずすごくラッキーだと思うと思うのです。しかし、チームラボの展覧会では、これまでのアートよりも、他者の存在を、ポジティブな存在として感じてもらえるのではないかと思っています。

これらのプロジェクトの資金調達やマネタイズはどのように行われましたか?

工藤氏:「チームラボボーダレス」については、チケットを販売したところ、購入してくれる人がいたという部分が大きいです。「チームラボボーダレス」でいえば、所有できるモノを展示しているわけではないので、ギャラリーなどに売ってもらうことは難しいのです。

もうひとつ大切なことは、私たちのプロジェクトに資金援助をしてくださる素晴らしいパートナーと出会えたからこそ、思い描いていた、大きな没入感を実現することができたと思っています。

パートナーといえば。ハンブルクに建設される予定のデジタルアートミュージアムのラース・ヒンリヒス氏と連携することになった経緯を教えてください。

工藤氏:ご縁だと思っています。詳しくお話すると、最初の出会いは作品を通じてで、初めて対面でお会いしたのはヘルシンキでの「teamLab: Massless」という展覧会でした。ラース・ヒンリヒス氏は私たちの作品を既にご存知で、ドイツにおける可能性を提案するために私たちのチームに声をかけていただきました。その出会いを通じて、お互いに好感を持ち、やりたいことは、似ているように感じました。それが3年ほど前の出来事です。それから、オンラインなどで打ち合わせを続け、一歩一歩前に進んできました。途中、コロナ禍による影響もありました。けれども、最初の出会いから長い道のりでしたが、何とかこのプロジェクトを継続させることができました。オープンまで、やり遂げられると確信したタイミングで、このプロジェクトを正式に発表しました。

ハンブルクのデジタルアートミュージアムはどのようなミュージアムになるでしょうか?また、ハンブルクという街がチームラボのアートに与える影響はありますか? 

工藤氏:チームラボの作品は、国籍は関係ありません。ハンブルクのデジタルアートミュージアムでも同じことが言えます。

私たちにとって、空間はキャンバスであり、光が絵の具だとも言えます。どこでも作品は創造できるのです。とはいえ、それぞれのキャンバス(それぞれの空間)の個性があり、それ故に、新しい体験ができるのも事実です。ですから、東京での体験と全く同じというわけではありません。

デジタルアートミュージアムに何を期待したらいいのかは、それぞれの人によって異なるかと思います。

ただ言えるのは、チームラボの作品は、壁面に映像が流れているだけだと考えている人もいますが、前述の通り、時期によっても、そこにいる人々によっても、作品は変化し続けています。ですから、一つだけ確かなことを言えば、既に私たちの展覧会を見たことがある人でも、必ず新しい発見と感動があるはずです。

東京の「チームラボボーダレス」は、短期間で、単一アート・グループとして世界一来館者の多い美術館に認定されました。ハンブルクのデジタルアートミュージアムの成功はどう定義しますか? 

工藤氏:明確な定義というのは難しいですが、ここまでの道のりで多くの障害と直面してきたこともあり、今は、作品の準備が完了し展示を開催することを目指してはいます。もちろん、できるだけ多くの人々に体験していただくことも、一つの成功の指標だと言えます。けれども、もし少しでも、未来のヒントであったり、価値観を変えることができたら、とても嬉しいことだと思います。

普通に世界を見れば、問題が溢れていて、解決できない問題を見てしまうとある種の絶望しかありません。逆に、そういう時代には、せめてアーティストとして、人間の理想的な部分を見つけて肯定してあげたり、未来を提示してあげたりすることのほうが、それは漫画とかゲームとかの単純なフィクションではなくて、何かもしかしたら実現可能な、理想的な架空の世界を提示してあげることのほうが重要だと私たちは考えています。

いまこの瞬間に解決できない問題でも人類の長い歴史のヒントを紡げば、理想的な世界をもう一回創れる、持てるんじゃないか、と信じています。戦略を練ることより、世界を批判することより、世界をクリエイト(創造)することのほうが重要だと思っています。

繰り返しになってしまいますが、チームラボは「デジタルという概念が美を拡張する」と信じています。そして、アートによって、人々と世界の新しい関係を模索したいと思っています。

空間をデジタルテクノロジーを使ったアートによって拡張することで、その場にいる人間同士の関係性に間接的に影響を与えられると考えています。その拡張された空間が、他者の存在によって変化するならば、他者の存在は、アートの一部になります。その変化そのものが美しければ、他者の存在は美しいものにもなりえるのです。デジタルテクノロジーとアートが結びつくことで、他者の存在をよりポジティブな存在にできると思うのです。

今後、ハンブルクのデジタルアートミュージアムが、そんな場所にできたらいいな、と思います。


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