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日独租税協定の改正、商法改正、そしてエネルギー監査について

フランカス | 公認会計士・税理士・弁護士事務所パートナー、ドイツ公認会計士 西村東陽

本稿は2016年1月配信のDJWニュースレターに掲載されたものです。

2016-01-08, 13:36

会計・税務の専門家として2015年を振り返れば、ドイツと日本国が1966年に締結した租税協定の改正の合意というビッグニュースがあり、長年の交渉がようやく実った年となりました。そこで本稿ではまず、その改正が在ドイツ日系企業に与える影響を簡単に解説します。続いて、2016年から適用になるドイツ商法典の改正に関するポイントについて、またドイツのエネルギー監査に関する留意点についても紹介していきます。

日独租税協定では、「日本企業がドイツで直接事業活動を行った場合に、その活動から得られた利益はドイツと日本どちらの国で課税されるか」、「日本人が本社からドイツへ赴任となった場合、個人所得税をどちらの国で納める義務があるか」などがルール化されています。その目的は、双方の国で課税される二重課税の回避や、いずれの国でも課税されない「Weiße Einkünfte = 白い所得」が生じないようにすることにあります。

さて、今回の租税協定の改正で関心度の高いポイントは、「ドイツから日本本社(日本本社がドイツ現地法人の直接の株主である場合)への配当を行う際に生じる源泉税が免除になる」ことでしょう。従来は源泉税15%が配当額から控除され、85%に減額された配当金が日本へ送金される仕組みでした。この源泉税は日本で外国税額控除などによって補填されることもなく、税負担が発生していました。この改正とともに濫用防止のために配当源泉税の免除又は軽減税率適用の前提条件が新たに定義されました。ドイツの現地法人への出資比率が10%以上で持分保有期間が6ヶ月を超えている場合の源泉税の税率は15%から5%に軽減されます。また出資比率が25%以上で持分保有期間が18ヶ月を超えている場合には、上記源泉税の免除が得られます。ただし租税協定の恩恵を受けるための条件として受益者が上場会社又は、事業の活動に従事している事などが挙げられていますので、実際に免税が適用となるか否かは個別に検証する必要があります。

なお、ライセンス・特許などの使用料をドイツから日本に対して支払う場合も、これまで源泉税を10%控除しなければならなかったものが、この改正合意により免除となります。利子に関してはドイツから支払われる利息に対して源泉税は従来より徴収されてませんでしたが、日本からの支払利息には10%の源泉税が発生していました。この利子に対する源泉税も今後は免除となります。

移転価格税制に関しても改正点があります。日本企業のドイツ進出形態は圧倒的に現地法人(主にGmbH)が多いですが、支店(恒久的施設/PE=Permanent Establishment)に帰属する事業利益に対する課税が今回のポイントです。本社-支店間の内部取引に関しても独立企業原則(at arm´s length principle)を適用し、本社-支店間の内部取引を網羅的に認識し、恒久的施設に帰属する事業利得を算定すべきと明文化されました。

2年前にドイツ連邦財務省の担当課長に話を聞く機会がありましたが、当時既にこの免除規定の導入に関しては合意済みであるとの説明がなされました。それにもかかわらず正式合意に至るまで時間が掛かった主な理由は、本協定の適用に係る紛争の円滑な解決を図るための相互協議による仲裁手続(両国の税務局間での協議によっても解決されなかった事案につき、第三者の決定に基づき解決する手続)と、国際的な脱税及び租税回避行為に更に効果的に対処するため、租税に関する情報交換規定を拡大し、両国間で租税債権の徴収を相互に援助する仕組み導入のためであったと言われています。

特にリーマンショックの2008年以降、海外拠点から日本の親会社への配当による利益還元も盛んになり、また日本から欧州へ進出する会社は年々増えていると感じられますが、この源泉税の負担は常に、既に源泉税を免税としている英国やオランダなどの周辺国に比べ、ドイツに不利に働いていました。今回の合意を基に、2016年に両国での立法が完了すれば、2017年1月1日以降はドイツ子会社から日本本社へ支払われる配当金の源泉税の徴収が免除となります。潤沢な資金を持つクライアントには配当は延期した方が良いと、3年前からアドバイスを繰り返していましたが、これで配当の時期の目処が立つようになりました(なおこの免除規定が適用されるためには租税協定適用の申請手続きを従来通りに行う必要がありますのでご留意ください)。

2016年はドイツ商法典の改正が施行される年でもあります。会計の専門的なルール改正はこの場では割愛し、主に中規模のドイツ現地法人にインパクトがある会計監査義務について解説します。

前提として、ドイツのGmbH(有限会社)やAG(株式会社)は一定規模を超過すると、ドイツ公認会計士による財務報告書の外部監査を受けなければなりません。この度のドイツ商法典の改正で、この監査業務が義務付けられる基準ラインが引き上げられたことにより、これまで監査の対象となっていた企業も2016年12月以降の決算から監査義務が免除になる可能性があります。改正後に外部監査が必要となる判断基準は、以下の通りです。

  • 売上高が1,200万ユーロ以上
  • 総資産が600万ユーロ以上
  • 従業員数が50名以上

上記3項目のうち、2項目以上の条件を2年連続で満たす企業については、会計監査義務の対象となります。現行(改正前)基準(売上高970万ユーロ・総資産480万ユーロ)に従いこれまで監査が義務付けられていた企業についても、改正後の新基準値に照らしてご確認ください。

もう1点、我々ドイツの公認会計士にとっては余り嬉しくない、監査業務の縮小に繋がる改正点が存在します。それは、「欧州持株会社がEU域内に存在し、そのレベルでEUの規定に基づく連結決算が作成され、かつ、会計監査の対象となっている持株会社がドイツ子会社の赤字を補てんする内容のレターを作成すること」により、ドイツでの監査が免除となる規定が導入されました。実際に赤字が生じて穴埋めが難しい場合にはこのレターを撤回することも可能ですが、その場合は、その事業年度のドイツでの会計監査を受ける義務が生じることになります。

最後に、ドイツのエネルギー監査について言及したいと思います。昨年10月中旬、当社クライアントから「フランカスはエネルギー監査も受託しているか?」というお尋ねをいただいたのを契機にエネルギー監査について詳しく調査したところ、このエネルギー監査が実は多くの企業に適用される可能性が判明しました。

エネルギー監査とは、公認会計士が実施する会計監査とは異なり、特別な資格を有する技術系の監査人が実施する省エネ促進を目的とした調査のことです。このエネルギー監査が必要となるのは、年間売上6,000万ユーロ・総資産4,000万ユーロ・従業員250名以上の大手企業のみであり、当社クライアントの殆どが対象外である認識でした。しかし、詳しく資料を読み進めていくと、外資系企業の場合、上記の基準値を超過しているか否かの判断に「グループ全体での連結ベースの数字が適用される」と明記されているのです。

つまり、たとえドイツ現地法人が従業員2~3名の規模であったとしても、日本の本社が上場企業で数百億円規模の売上を持つ場合、この監査を受けなければならないとの条文になっているのです。もしこれが事実ならば、当社のクライアントの殆どが対象範囲に含まれることになり、早急な対応が必要となります。

俄かには信じがたいため、エネルギー監査の管轄当局に直接、「エネルギー監査の適用外となる条件などは定められていないのか」と、例外規定について問い合わせました。具体例として、年間売上が数十万ユーロ・日本人赴任者1名・ドイツ人スタッフ2名・100㎡規模の事務所という条件で照会したところ、驚くことに、「例外規定は存在しない」、「12月5日のエネルギー監査実施期限内に間に合わなければ、最高5万ユーロの罰金が発生する」との返答でした。ただ経験上、たとえ規則で定められていたとしても、ドイツ当局が現地の零細・中小企業に対して、数週間以内に監査を実施しなければ高額罰金を科すなどということは想像できません。そこで、担当者に改めて相談したところ、「罰金が課せられるか否かは、当局担当者の裁量で決められる」、「エネルギー監査人が多忙な背景があるため、期限厳守が難しい場合でも、監査依頼さえ出していれば大事にはならないだろう」との見解が示されました。

早速、エネルギー監査を業者に依頼するよう、各クライアントに連絡しました。その際、依頼先業者より「会社の規模が小さいためエネルギー監査は不要」との返答を受けたケースもあったようで、当社情報の正確性を疑われたこともありましたが、当局とのメール履歴なども情報開示し納得いただいたところです。

実際にエネルギー監査を受けた小規模クライアントのコスト負担は1,500~3,000ユーロであり、この監査は4年ごとに更新される必要があります。事務所の電気機器の消費電力を調査し、どのような節電が可能かのアドバイスが成果物となりますが、調査により可能となる電気代の節電費用よりも監査費用の方が高くつくケースも少なくはなさそうです。

小規模なドイツの現地法人が、なぜ外資系というだけでエネルギー監査を義務付けられるのか?この問いにお答えするために、当時の法案議事録(国会答弁)を確認したところ、「国際的な企業は、省エネマネジメントのISO規格の検査を受けているはずであり、グループ会社も考慮されているため負担にならないはず」と、少なくても当社クライアントでは該当しない理由が挙げられていました。さらに納得がいかない点は、本法規定はEU指令の国内法化でありますが「グループの連結ベースの数値(ここでは、日本本社の業績を含めた数値)で考慮する」といった定義はEUからの指令に含まれていないことです。つまり、ドイツ特有の厳格化なのです。

エネルギー監査義務が初耳の皆様におかれましては、第1四半期内にエネルギー監査を終えられることをお勧めします。同監査の実施有無は、ドイツ経済産業省の検査ですぐに明らかになる可能性があります。発見リスクが高いか否かを明言することはできませんが、コンプライアンス上、受けなければならない監査となっています。「知らなかった」がために、罰金・罰則のペナルティを受ける日本企業が現れないことを願います。

 

 

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Toyo Nishimura
Wirtschaftsprüfer, Partner, Frankus | Wirtschaftsprüfer, Steuerberater, Rechtsanwälte
t.nishimura@frankus.com
www.frankus.com
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