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協力し、競い合う良きライバルに

DJW理事メンバー、Dr. 神余 隆博氏へのインタビュー

DJW理事会からのお知らせ

2024-09-13, 09:00

DJWは、経済・ビジネス分野における日独関係を深化させるとともに、両国の交流をあらゆるレベルにおいて強化するという目標を、DJW会員、そして会員により選出された理事メンバーとの協力の下、彼らの積極的な取り組みを推進力に達成してまいります。経済・ビジネス分野に特化した非営利団体である私たちは、会員、理事、パートナーの豊富な経験と専門知識が蓄積された、経済、政治、学術の分野で安定したネットワークを形成しています。

インタビューシリーズ「DJW Insights」では、DJWチーム特別顧問理事メンバーを紹介するとともに、日独経済・ビジネス分野で活動することになった最初のきっかけや、DJWの活動への参加する理由、また当協会での活動を通して近い将来実現させたいアイデアなどを伺っています。

今回は、現在は関西学院大学の理事・学長特別顧問を務められている神余 隆博DJW理事にインタビューを行いました。元駐ドイツ日本大使である神余氏は知独家として知られ、DJW理事に就任以来、特に日本でのDJWの活動にご助力いただいています。

 

神余さんはDJW理事メンバーとして現在に至るまで長年にわたり当協会をご支援くださり、また、日本から日独関係推進・強化にご尽力し続けています。神余さんのドイツへのご関心は何がきっかけであり、そしてドイツとの最初の接点はどのようなものだったのでしょうか?

1972年に外務省に入省して、翌年ドイツ語の研修のために派遣されたのがドイツとの最初の接点でした。外務省に入ってドイツ語を選んだのはアングロサクソンやフランスとは違うドイツの真面目かつ質実剛健なイメージでした。ゲッティンゲン大学で国際法を勉強する前に最初に訪れたのはSauerland のIserlohn にあるゲーテインスティテュートでした。そしてそこでお世話になったのが下宿の主のFrau Mechthild Vollmer でした。Vollmer 夫人は何も知らない外交官の卵であった私にその後ドイツで生活をしていく上で非常に大きな影響与えてくれました。ドイツにおけるマナーや風習そして社会常識などその後もずっと折に触れて教えていただき、わたくしにとってはドイツにおける母という存在でした。今でも心から感謝しています。

ドイツのどのような点に最も魅力を感じますか?

やはりまじめさと約束を守るという点です。pacta sunt servandaが徹底されています。時には規則に縛られて柔軟さを感じない点もないではないですが、社会と国家が規律正しく運用されて、ルールを守る限り外国人も市民の一人として受け入れられることは私にとっては大きな魅力でした。ドイツ人のJa は本当にJaで、この点について失望を感じたことはありません。こんな国はあまりないのではないでしょうか。

ドイツではデュッセルドルフにて総領事を、また、ベルリンにて日本大使を務められた神余さんですが、ご滞在中ドイツと日本で社会の有り方、価値観等にどのような違いがあり、また共通点があると感じましたか? それは、年月を経て変わってきたと感じますか?

真面目、勤勉、時間厳守、順法精神、清潔、秩序維持などは日独共通する価値観で、日本とドイツで大きな違和感をもったことはありません。日本の常識はドイツでも常識であり、多くの日本人はドイツで暮らすのに大きな抵抗感は感じないと思います。私は世界の他の地域からドイツを訪れると「帰ってきた」、アットホームな感じがします。ドイツを知らない日本人や外国人の中にはドイツは堅苦しい、住みにくいなどと思う人もいますが、ドイツのルールに慣れてしまうと安心を感じます。言葉を勉強してドイツ人の思考方法、表現方法に慣れてくると非常にgemütlich に感じます。勿論日本との違いも多くありますが、それは人間としての根本的な価値観のレベルの問題ではなく、やり方、方法論のレベルの違いであり、好き嫌いの感情的なレベルでの話になります。ただ、少し戸惑うのは、ドイツ人は正しいと信じることを人に押し付けてくることがままあるということです。これに対し日本の社会は相手の気持ちを推し量ってできるだけ押しつけとならないように気を配って、忖度する習慣があるので、面倒くさい面はありますが、優しいです。

頑固という点では日本人はドイツ人にはかなわないと思います。良いものを徹底して長く維持しようとするドイツと良いものでも常に改善しつつ便利なものにしていこうとする日本の違いがあり、これが企業文化やモノづくりにも表れてきます。ドイツの伝統的なマイスター制度に裏付けられたモノづくりは、安心と信頼感を与えますが、時代の変化に適応して簡単には変わりません。日本のモノづくりは、トヨタの「カイゼン」にみられるように常に欠点を見つけて直そうとする「適応」の考え方です。どちらも長所と短所がありますが、それだからお互いに競い合うことで、ともに啓発されるのだと思います。このような社会の在り方や価値観は世代による違いは若干ありますが、年月を経ても根本は変わるものではなく、国民気質と呼ばれるものを形成しています。

少し個人的な質問になりますが、ドイツにご滞在中、日本のもので恋しいと思ったものはありましたか?また、日本に戻られてからドイツのどんなものが日本にあればいいのに、と感じられましたか?

私はどちらかというと適応能力がある方なので、ドイツに住んでいる時はドイツ流に生活します。したがって、食べ物にしても生活必需品にしてもあまり日本を恋しく思うことはありませんでしたが、子供の時に見た日本の田舎の原風景や聞いて育った日本の童謡や唱歌は時々恋しく思います。温泉や日本の宿などは年を経るにしたがって、恋しくなります。

逆に日本にあれば良いと感じるのはドイツの家と家具と庭です。そしてドイツの静謐を重んじる生活環境です。この点では日本はドイツにかないません。

日本およびドイツを取り巻く世界情勢は非常に複雑なものとなってきていますが、ご自身から見て、両国民にとって今後更なる相互理解を育む上でどのような意識が重要になるとお考えですか?

やはり、中長期的に見た場合、両国の人口と国力の減少により日本もドイツも大国からミドルパワーになっていくことです。両国とも半世紀以上の長い間経済大国であり続けましたが、政治大国になりきっていないことが挙げられます。ドイツも日本も大国とミドルパワーの中間的な存在で、アンビヴァレントという英語の表現がしっくりと当てはまります。国連の常任理事国になりたくてもなかなかなれません。日本とドイツは21世紀においては、中国やインド、ブラジルなど大国化する新興国とは異なるグローバル・ミドルパワーとして他のミドルパワーや民主主義の国々と結束してこれからの戦争の時代を乗り切っていかなければなりません。もはや大国ではないが、決して侮れない経済と技術力を持ったグローバルな中堅国家として、世界平和と人類の発展のために協力し、競い合う良きライバルになれたらと思います。

ご自身から見て今後どのようなテーマが日独関係を形成していくと思いますか?

77年続いた第二次世界大戦後の長い平和な時代がウクライナ戦争と新中東戦争でいまや本格的な戦争の時代に突入しています。やはり日独が協力し合う最大のテーマは平和の維持と紛争の解決です。日独は真剣に平和創造(peacemaking)のために他の有志国とともに積極的にイニシアティヴをとるべきです。そのためには自国の安全を自ら保つ防衛・安全保障面での自助努力と協力も大きなテーです。また、民主主義国家よりも独裁・権威主義的国家が数として上回る時代に、日本とドイツは民主主義、自由、人権という人類共通の価値観を維持していくための政治的な協力を推進する中心的な国となるべきです。勿論、環境や地球温暖化、食糧、エネルギー、感染症等の地球規模の問題はこれからも両国の協力の大きなテーマであり続けます。人々の自由を保障するためには自由な情報の発信と共有が必要で、偽情報やインフォデミックスに対する取り組みも今後の大きな協力のテーマとなるでしょう。

日独関係の更なる強化に向けたチャンスはどこにあると思いますか?

日独は切磋琢磨して人類社会を発展させていくための競争をする良きライバルであり続けるべきです。ドイツは近年中国という巨大なマーケットに心を奪われ、日本への関心が薄れていました。しかし、経済安全保障や自由、人権、民主主義、市場経済といった普遍的な価値観を維持するために協力すべき相手として日本を再認識すべきです。そして、今後21世紀の世界で重要な役割を果たすであろうグローバル・サウスと呼ばれるインドをはじめとする新興国やアフリカの途上国などとの協力の可能性を共に模索すべきです。

上記に関連して、DJWは今後どんな役割を果たし、どのように取り組んでいくべきと思いますか?

DJWは日独が協力して取り組むべき経済・社会・地球規模のテーマに関してこれまでも様々な提案をしてこられています。ウクライナや中東の戦争によって世界が不安定になり、世界経済が大きな影響を受ける「戦争の時代」に突入しつつあることを踏まえて、日独両国が経済・貿易・産業・情報技術革新等の面において進むべき道を提案し続けることが期待されます。これらの面での日独両国の協力のすそ野を広げ、次世代に引き継いでいくためにも若手のビジネス関係者の協力と産業の大部分を占めている中小企業相互の交流をより一層活発にすることが期待されます。

最後にDJW会員の皆様にメッセージをお願いします。

世界経済が発展していくためには、平和な環境が必要です。日独が戦後77年間経済大国として活動できたのも平和が維持されてきたからです。日独両国はいま戦後の平和秩序が大きく変わる「時代の転換」(Zeitenwende)を迎えています。21世紀が再び戦争の世紀にならないように、経済人も意識を高く持って行動する必要があります。DJWの会員の皆様の一人一人の努力によって、世界平和に貢献する日独産業協力が継続・強化されるよう期待したいと思います。

 

本インタビューは、2023年10月に実施しました。ご多用の中、お時間を割いてくださったDr. 神余 隆博氏にDJWチーム一同心より感謝申し上げます。

 

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