J-BIG 3月号:ビョルン・アイヒシュテットとニーナ・ブラゴイェウィッジによるインタビュー
DJW協賛会員Storymaker GmbHによる記事
漫画といえば、丸くて大きな目のキャラクターや短いスカートを履いた制服姿の女子高生、激しい戦闘シーンなどを連想する人が、ドイツではまだまだ多いことが現実です。しかし、漫画には隠れた魅力がたくさんあり、ドイツの漫画市場も成長しています。そう説明してくれたのは、ハンブルクにあるカールセン出版社の漫画部門の編集長を務めるカイ=シュテフェン・シュヴァルツ氏(以下:シュヴァルツ氏)。今回のJ-BIGインタビューでは、日本の出版社とどう連携して仕事をしているのか、おすすめしたいコンテンツ、そしてドイツにおける漫画のポテンシャルについてお話を伺いました。
— ドイツの漫画文化は、カールセン出版社の漫画ビジネスと共に発展してきました。31年前、この分野に挑戦することとなったきっかけを教えてください。
シュヴァルツ氏:ドイツでは、既に1970年代からアニメが成功を収めていました。『小さなバイキング ビッケ』や『ジャングル大帝』、『みつばちマーヤの冒険』、『 アルプスの少女ハイジ』など、日本で制作されたアニメの多くはドイツのテレビでも大人気で、現在も放映され続けているものも少なくありません。一方で、日本の漫画がドイツ語に翻訳されるようになったのは、もっと後のことでした。私が認識している中での最初の漫画の出版物は、1982年に Rowohlt社が出版した、広島の被爆者の体験を元にした自伝的漫画『はだしのゲン』で、第一巻だけが販売されました。また、1980年代には、日本経済の激動期を描いた『マンガ日本経済入門』など、他にも何冊か出版されました。しかし、当初は、日本の漫画のドイツ語版が市場に出ること自体、非常に散発的でした。
当社は、1950年代より『Petzi』を、1967年より『タンタンの冒険』などのコミックを出版しており、ドイツの出版社としては初めて長編漫画シリーズなるものを販売していました。それが1991年の『AKIRA-アキラ-』です。
これは、出版社として極めてリスクの高い試みでした。当時、私はまだカールセン出版社に就職していたわけではなく、学生としてコミックショップのアルバイトをしていました。しかし、当時を知る同僚は「経験上、白黒漫画は売れないということは言われていたし、日本特有の綴じ方や長い連載というのも読み物として魅力的ではなかった」と振り返っています。
それでも日本の漫画を出版することに至ったのは、原作者の大友克洋が自ら監督としてアニメ化したからでした。また、米国のマーベル社傘下のレーベル「Epic」がカラー印刷に加えて、右綴じの本を左綴じに逆版する許可を得たことをきっかけに、フランスやドイツでも挑戦してみることになりました。
— 世間の反応はいかがでしたか?漫画の読者層はすぐに広がったのでしょうか?
シュヴァルツ氏:『AKIRA-アキラ-』の出版は、世間を賑わす出来事となりました。『アルプスの少女ハイジ』や『みつばちマーヤの冒険』などとはビジュアルが大きく異なり、おまけに暴力的な表現もたくさんありました。ドイツのコミックファンは『アステリックス』をはじめとする西洋の古典的なスーパーヒーローに親しんでいたため、このような新しいジャンルに慣れるまで、焦燥感に駆られる人もいました。
それにも関わらず、日本の漫画のドイツ語版を出版する試みは継続されました。逆版にすることは可能でしたが、印刷カラーは白黒のまま。当時、電子メールなども普及しておらず、データの入手自体容易ではなかったのです。基本的には、西洋本の綴じ方に合わせた原物データを用意できる米国の出版社を経由してライセンスを取得するので、10分程度で読める120ページの漫画でも25〜30マルク掛かってしまいました。この価格帯を受け入れてくれる読者はごく一部。この課題には、当社だけでなく、漫画販売という未知の領域に挑戦するすべての出版社が直面しました。しかし、1990年代末に、当社やEgmont社(当時は「Ehapa」という社名で、レーベル「Feest」所属)が、より費用対効果の高い大衆受けするビジネス改革をしようと動き出しました。この改革がなければ、ドイツの漫画ビジネスは終焉に向かっていたでしょう。改革の結果、当社で『ドラゴンボール』、Egmont社で『美少女戦士セーラームーン』のドイツ語版がそれぞれ誕生しました。私にとって、この出来事が今日のドイツにおけるメインストリーム漫画の市場誕生の瞬間でした。
ちなみに、『ドラゴンボール』はドイツで初めて日本と同じ右綴じの本として出版された長編漫画です。これは当時、出版業界でもかなり物議を醸しました。競合他社が市場調査機関に依頼し、若いターゲット層に受け入れられるのかどうかを調査したという噂も流れていました。「ドイツの若者が本を後ろから読むことは絶対にない。必ず失敗する。」というのが当時の結論でした。
それでもやってみることになった背景は、とても現実的なものです。単純に日本の出版社側に綴じる方向を決められていたのです。当時、日本のライセンス機関の担当者は、この条件だと誰も契約しないだろうと、駄目元でドイツに来ていたと言われています。しかし、私たちはあえてトライしました。振り返って言えることは、特に若い読者層は、一部の人が考えているよりもずっと新鮮さを楽しみ、柔軟性を備えているということです。
— 典型的な漫画ファンとはどのような人を指しますか?御社が取り扱う漫画は主に若い読者向けですか?
シュヴァルツ氏:まだまだ多くの人が漫画を誤解しています。1990年代に、非常に強力な誤ったイメージが形成されました。大きな目のイラストや綴じの方向、さまざまな視覚的な暗号などの偏見は薄れつつあるものの、日本の文化に触れずに育った人は、未だに漫画をどう扱っていいのかが分かりません。一方で、この特殊性こそが、若者などの興味を唆ることもあります。例えば「やっと親が理解できないものに出会えた」。このように喜ぶ人も中にはいます。親も子も同じような服を着て、同じような音楽を聴くこの時代に、漫画は自分を差別化する手段であると同時に、非常に活発なコミュニティの一員になる機会を与えてくれます。
漫画ファンの多くは、自ら漫画の絵を描いたり、歌やダンスを練習したりするのが好きで、ブックフェアがいつか再び開催されるようになれば、コスプレイヤーとも交流をします。コスプレ用のコスチュームは手作りであることが多く、そのデザインは目を瞠るほど独創的です。漫画ファンに対して、ファンタジーの世界に引き込まれて、孤立している一匹狼のようなイメージを持つ人もいますが、それは間違っています。大抵はその逆で、日本のサブカルチャーは受動的な消費ではなく、能動的な習得と理解によるものなのです。
私たちの読者層は非常に多様ですが、あえて分類すると、出版物の約半数は10歳前後の男の子が対象の「少年漫画」。2番目に多いのが「青年漫画」です。この分野は以前からありましたが、私たちも他の出版社も、大人向けの漫画に注力しはじめたのはここ10年ほどのことです。3つ目の分野は女の子や若い女性向けの「少女漫画」。この事業は、当社では比較的小さいのですが、Tokyopop社やKazé社といった出版社はさまざまな作品を取り扱っています。しかし、必ず言及しておきたいことがあります。このような「少女漫画」や「少年漫画」といった言い方は、書面上のカテゴリーに過ぎません。私たちは、男性向けの出版社だと思われているようですが、女性読者もかなりの比重を占めており、それが50〜60%のシリーズもあります。
— ご自身のキャリアについて教えてください。御社では最初から漫画に携わっていましたか?
シュヴァルツ氏:私は、1998年にカールセン出版社に就職しました。漫画も属する「コミック部門」の編集者としてスタートし、当時、洋書のほかに『ドラゴンボール』を毎月1巻、そして、他にも2〜3巻のシリーズものを、比較的少部数で出版していました。翌年には、配給部門に異動しました。2005年までの間に『ドラゴンボール』の漫画とアニメが本格的に普及しはじめた結果、漫画の企画を担う部門が大きく発展し、私が漫画企画の責任者に就任したころには、既に土台ができていました。現在私は、企画とライセンス交渉の責任者を務めており、6名の漫画チームが全タイトルの編集及び監修を担当しています。
— カールセン出版社の事業全体において、漫画部門はどのような立ち位置ですか?
シュヴァルツ氏:漫画部門の収益は毎年多少変動しています。例えば、2020年と2021年は、当社に限らず、他の出版社においても、漫画が非常に好調の年でした。この期間における漫画の収益は、当社全体の約20%を占め、2020年の純売上に関しては1200万ユーロ弱でした。創業当初は、誰も夢にも思わなかったでしょう。
現在、市場調査を通じて成長理由を検証しているところですが、こういった傾向があることには特に驚きは感じません。他の欧米諸国も同じように成長しており、中にはさらに伸びている地域もあります。2021年のドイツ語圏の漫画市場は、すべての出版社を含めると前年比の80%増加しました。2020年春の1回目のロックダウン時には数字が一度下りましたが、多くの読者は直ちに書店のオンラインサービスや宅配サービスを発見して戻ってきてくれました。コロナ禍には、娯楽として楽しめる本や漫画の需要が拡大しました。
それに加えて、漫画やアニメがメインストリームになってきたことも挙げられます。20年ほど前は、RTLIIなどのニッチなチャンネルで、年に1つか2つのアニメシリーズが放送される程度でした。それが今やNetflixやCrunchyroll、ProSieben Maxxなどのプラットフォームで、常に200もの作品から選んで合法的に視聴できるので、このジャンルにはまる人も当然増えてきています。さらに、日本のアニメが吹き替え、または、字幕付きでドイツの視聴者の元へ届くスピードも速くなっていきます。いわゆるサイマル放送では、日本の放送日の翌日には、新しいエピソードが英語字幕付きでさまざまなプラットフォームで配信されることがあります。こうした動きは、いずれも漫画にも強い影響を与えています。
— 御社は、漫画市場において他社と比較してどのような立ち位置ですか?
シュヴァルツ氏:非常に現実に近い市場シェアを計算することは、実は簡単です。「メディアコントロール」という、書店やAmazonなどのオンライン販売業者を含め、市場の約80~85%をカバーする中立的な情報源があるからです。コミックショップは含まれていませんが、そこでは漫画はごく少数しか販売されていません。書籍販売においては、当社が36%弱でマーケットリーダーで、次いで18%のKazé社と続きます。
直近のドイツの書籍販売における漫画の売上は年間約5000万ユーロです。また、すべての販売チャネルを含むと、2021年には8000万ユーロを超えていました。悪い結果ではありませんが、例えば、「ハンド・デシネ」と呼ばれるフランスとベルギーを中心とした伝統的なコミック文化が根付いている影響で、フランスの漫画市場はドイツの3〜4倍の規模があります。また、イタリアでも、漫画文化はドイツより根付いています。しかし、ドイツでも人気は上昇しており、大きな可能性を秘めています。
— 何年も前から出版業界のデジタル化について熱い議論が繰り広げられています。具体的に漫画の分野ではどのような影響があるとお考えですか?
シュヴァルツ氏:複数の条件を区別して考える必要があります。まずは、読者との相互作用です。若い世代は、毎日インターネットに触れています。読者と簡単に繋がれることはオンラインの良さです。私たちは、読者の近くに立っていたいので、ブックフェアと並んで、SNSは欠かせない接点です。新刊やプレゼント企画、特別なイベントなど、最新のニュースを積極的に発信することができ、新刊に対する反応や、次に読みたいものなど、コミュニティ内で起きていることを知ることも重要です。
一方で、漫画のデジタルコンテンツはまた別のカテゴリーであり、ドイツではまだあまり普及していないと言わざるを得ません。弊社では、毎月25~30冊の本がデジタル出版されていますが、売上に占める割合は3%にも及びません。確かに、小説のように、電子書籍が総売上の50~60パーセントを占める分野も存在します。漫画の場合、そうはいかない理由がいくつかあると考えています。まずは、漫画は非常に視覚的なメディアであり、それが読書の仕方にも影響を与えていることです。私は通常、新しいページを開くと、まず見開き2ページの全体像を把握してから、1コマずつ読み進めていきます。それをデジタルで再現することは難しいことです。読者は、忙しなくズームを繰り返し、全体におけるコマの相互作用が欠落してしまいます。また、合理的なビジネスモデルを考えることも課題です。各巻、あるいは各章のマイクロペイメントに依存するのか、定額制にするのか……。特に短編のデジタル版の場合、消費者は無料コンテンツを期待しがちですが、当然ながら出版社側にはコストが発生します。現時点では、利益をもたらすモデルにはなっていません。
日本の状況は少し異なります。日本では、デジタル漫画が存在感を増し、紙媒体の売上をますます上回るようになってきています。ドイツにおいてまだあまり実現していない理由は、スキャンレーションサイトのような違法プラットフォームの実態とも関係しています。スキャンレーションサイトは、著作権者に無断で漫画を翻訳して提供するサイトで、日本人の著作権に対する考え方や作者に対する敬意とはもはや二律背反するものです。
日本の出版社は即座に、許されないことだと判断し、この流れに対抗するため、独自のプラットフォームが開発し、最初の章など、漫画を部分的に無料で配信しています。例えば、長いシリーズの場合、最新巻は無料で入手でき、旧作はデジタルで購入することなども可能です。日本ではデジタル版として公開された漫画が、ドイツでは紙媒体でライセンスされたものも存在します。今は過渡期なのかもしれませんが、ドイツにおけるデジタルにおける漫画の購入は特に需要がなく、経済的にもまだ採算が合いません。
— ドイツ語翻訳版の制作は、どの程度自由がきくのでしょうか?
シュヴァルツ氏:原則として、日本の原作に忠実に仕上げています。これは厳格な著作権の問題だけでなく、漫画家とその作品に対する敬意でもあります。例えば、日本の綴じ方を守ることは、今や基本中の基本です。一方で、谷口ジローの作品のように、例外もあります。この作品は、漫画とは無縁の環境で育った読者を対象にしていることが明確なので、若干欧州向けのグラフィックスタイルに適応しました。でも、それはあくまで例外です。素晴らしいアイデアがない限り、日本の表紙を使用することも前提としています。いかなる場合でも、表紙に加え、著作権を記したインプリントを本ごとに個別に承認してもらう必要もあります。承認されなければ、印刷・出版に踏み切れないのです。フォーマットをすべて統一する出版社もありますが、私たちは、日本のフォーマットに適用できるよう心掛けています。例えば『ドラゴンボール』や『ワンピース』は日本に準拠し、『モンスター』の「Perfect Edition」のような特別版は、大きめのフォーマットで出版しています。しかし、例えば、田辺剛の『ラヴクラフト』シリーズは例外で、絵が細部までこだわっているので、作品に敬意を表す意味でも大きなフォーマットを選びました。当初は日本の出版社の了解が得られるのか不安でしたが、このケースではうまくいきました。
30年も在籍していると、プロセスを把握しコツを掴めるようになりますが、スムーズにいかない瞬間も必ずあります。しかし、こういうときこそ、共通意識を持つことが大切です。もしゴーサインが出ないまま、自分が正しいと思うことをやってしまったら、その出版社と関わることは二度とないでしょう。
— 通常、ライセンスプロセスはどのように行われますか?出版社と直接お話されるのですか?
シュヴァルツ氏:一部の例外を除き、日本の漫画出版社は通常、ライセンス機関と連携しています。代理店は主に日本に拠点を置いていますが、欧州にオフィスを構えているところもあります。これらは仲介役として、私たちと直接遣り取りをします。出版社とも連絡を取ることはありますが、基本的には正式なプロセスで進めていきます。
面白い漫画のシリーズを発見し、ライセンスを求める典型的なケースといえば、まず、原作を出版している会社を調べることから始まります。そして、その出版社、またはその出版社を代理するライセンス機関と過去に取引があったかどうかを調べます。もしなければ、調査をし、ライセンス供与のオファーを送ります。タイトルやプロジェクトによっては、私たちが具体的にどういったマーケティングを計画しているのか、アイデアを求められることもあります。そして、返事が来たら交渉に入ります。いくつかのライセンス機関や出版社は、年に3〜4回、サッカーの移籍期間のような正式なオファー期限を設けています。新作のシリーズを獲得したいと思うと、この期間内にすべてのオファーを提出しなければなりません。ドイツのどの出版社が権利を取得するかは、最終的には日本の出版社が決定します。また、コンテンツ的には面白いけれども、ライセンス部門を持たない小さな出版社も数多く存在します。このような場合は例外的に、別のアプローチ方法を考える必要があります。
— このようなライセンス契約は、漫画のシリーズ全体に適用されますか?それともまずは、第1巻で試してみて様子を見るのでしょうか。
シュヴァルツ氏:前提として、何かを出版すると決めたら、私たちは、常にシリーズ全体を指しています。本当に素晴らしい新作のシリーズは、当然獲得したいものです。ライセンスを受け取る側は、少なからず衝動買いのような面があり、リスクがないわけではありません。一方で、予算的に厳しいので、シリーズを途中で中断することは、例外に過ぎないごく稀のケースです。状況を完全に見誤り、その作品に誰も興味を示さないことが分かったときにのみ起こることです。例えば、漫画本が6,50ユーロで売られているとします。その大部分は、制作費、取引割引、ライセンス契約、翻訳などに使われます。つまり、1巻から最終巻まで、数千部売らなければ利益が出ません。出版社特有の相互補助モデルでは、ベストセラーが失敗作の資金源になることは避けられません。
— 特定の漫画家と契約を結ぶことはありますか?例えば、浦沢直樹のような作家は、基本的に一度契約した出版社とずっと仕事をすることになるのでしょうか?
シュヴァルツ氏:浦沢直樹は日本国内で出版社を変えていますが、これはあまり一般的なことではありません。通常、漫画家とその漫画家を代表する出版社には、深い絆があります。ドイツの出版社は、必ずしもそうではありません。例えば浦沢直樹の『20世紀少年』シリーズはPanini社が、『モンスター』シリーズや最新作の『あさドラ!』は当社が出版しています。
しかし、特定の国やタイトルに関して、普段から一緒に仕事をしている出版社に優先的に交渉権が与えられるケースはあります。例えば、私たちは以前、少年漫画雑誌の 『Banzai!』を発行していました。当時は、コンテンツの内容も重要でしたが、集英社の少年漫画の新作をいち早く手に入れられるという点でも、この協定は非常に価値あるものでした。女性向けには『Daisuki』という雑誌があり、白泉社の少女漫画が欠かせませんでした。そして、国によってさまざまな取り決めがあります。例えば、米国の出版社VIZ Mediaのオーナーは日本企業なので、関連する日本の出版社への最初のアクセス権を持っていると考えてよいでしょう。ドイツの出版社Kazéは、もともとVIZ Europeに属していましたが、その後Crunchyrollに売却され、現在はソニーの傘下に入っています。このように、複雑に絡み合っているのです。
— カールセン出版社の企画に沿った漫画の選定の企画や調査方法について教えてください。
シュヴァルツ氏:もちろんさまざまな基準があります。近年、日本やドイツで漫画市場が発展しているため、面白いものを発見すること自体はそれほど難しくはありません。ドイツの読者にとって、どのタイミングで、どの作品がふさわしいのか……。優先的に取り扱うものを決めることが私たちの課題です。
読者自身のコミュニケーション能力も非常に高く、どのシリーズをドイツ語で読みたいか、積極的にアピールしてくれています。そして、どの作家やコンテンツを紹介するかという編集計画も存在します。例えば、ヒットしているものがあれば、同じ作家さんが他にも面白いシリーズを出しているかどうかを確認します。特に少年漫画は、ヒットするとかなり長い期間連載されます。例えば『ドラゴンボール』なら42巻、『ONE PIECE』なら日本ではすでに100巻が発行されています。ドイツでは3月末に発売される予定です。また、正式に連載が終了した作品も違う形で生き続けていることがよくあります。例えば『NARUTO -ナルト-』は全72巻で完結していますが、現在では選集やスピンオフ漫画も出ています。選集を買う人は、単行本を買っていた人とは別の人たちです。そこが面白いのです。作品自体は20年前のものですが、若い読者にも新鮮で面白いと思います。
このような継続的なシリーズは、私たちにとってありがたいことであり、選びやすいと思います。通常、読者を飽きさせないために、多くのシリーズが隔月や3ヶ月に1回のペースで刊行されています。しかし、それ以外にも、少年向けと少女向け、お馴染みのシリーズから新作、青年〜成人向けの難易度の高い目玉企画など、内容面でのバランスを保つよう心がけています。現在、平均して月20冊程度の新刊と、撰集を幾つか刊行しています。常に、誰もが楽しめるような作品を提供するようにしています。
— カールセン出版社や他の出版社関係なく、個人的に一番好きな漫画を教えてください。
シュヴァルツ氏:良作は本当にたくさんあるので、難しい質問ですね。今は『サーチアンドデストロイ』シリーズがとても印象に残っています。当社で出版された漫画です。手塚治虫の『どろろ』という作品の再アニメ化、あるいは再解釈なのですが、絵が非常に面白くて、漫画としては異例なのです。
大友克洋の『童夢』は、ドイツ語では『Das Selbstmordparadies(直訳:自殺パラダイス)』と呼ばれていた作品ですが、残念ながら現時点でドイツではライセンスがありません。70年代後半から80年代前半に書かれた物語で、当時はSFの賞をいくつか受賞しています。いつかまた、ドイツの読者に届ける機会があればと強く願っています。しかし、商業的にあまり成功しなかった作家もいるにせよ、私がとても面白いと思う作家は他にも数多く存在します。例えば、児童養護施設を舞台にした松本大洋の自伝的漫画『サニー』や、他社の作品であれば、浅野いにおの漫画など、挙げればきりがありません。
— 今特に楽しみにしている新巻はありますか?
シュヴァルツ氏:たくさんありますね。特に楽しみにしているのは、映画化に合わせて全3巻で出版する予定 のH.G.ウェルズ作の『宇宙戦争』。また、手塚治虫の『アドルフに告ぐ』の新装版も予定しており、こちらは『Die Geschichte der drei Adolfs』となる予定です。挿絵と内容の両面から『北北西に曇と往け』という物語も面白いと思います。アイスランドが舞台で、作者やイラストレーターも自らアイスランドを訪れていたそうです。全体として、かなり変わっていて、とても面白いと思います。すでに第1巻が出版されていますが、今後どのような展開になるのか気になります。
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