インフォメーションプール

日EU貿易・経済関係

アンドレアス・カイザー (弁護士)

各種協定によるその前進

2018-07-03, 11:30

1.はじめに

周知のとおり日本とEUは、「経済連携協定(EPA)」交渉を終え、最終内容についての合意を成立させた。現在ではそれぞれ内部で批准・承認手続きが進められており、協定発効もいよいよ間近に迫ってきた。同協定の法律的に見た概要は、ドイツ語でDJW「インフォメーションプール」において紹介した。

日EUの間では、EPA交渉と並行して、「戦略的パートナーシップ協定(SPA)」についての交渉が進められてきた。SPA協定は、政治対話、エネルギー、交通、人権、学術・教育政策、科学技術、司法、難民・移民政策など多数の分野にわたる内容をもつ。SPA協定交渉は今年2月に合意に至った。協定文はまだ未入手である。

EPA及びSPAは、双方がそれぞれ内部の手続きを完了し、批准を経て協定発効に至ってからでなければ拘束力はもたない。

日本とEUは、製品・製品試験・製造管理に係る適合性評価の相互承認(2002年)、反競争的行為に係る協力(2003年)、原子力の平和利用に関する協力(欧州原子力共同体【ユーラトム】との1998年、2006年、2007年の協定)、税関に係る事項における協力と相互行政支援(2008年)、刑事に関する共助(2010年)、科学技術協力(2011年)等、様々な分野において、すでに複数の協定を締結してきた。

本稿では、日本とEU間における新協定と既存の協定の双方について、その内容と、日EU間貿易・経済関係にとっての意義を概観してみたい。

 2.日EU経済連携協定(EPA) 

日EU・EPAは、EU共通市場における日本企業のため、そして日本市場における欧州企業のために最大限有利な市場アクセスの実現を目指し法的基盤を整備するものである。同時に、法的安定性、透明性、消費者保護、中小企業支援、競争力、経済・社会・環境の持続可能性といった経済政策が目指す重要な方向性に沿って法的枠組みを整えるものである。協定文は、英文では約2000ページにも及び、EU加盟各国の言語並びに日本語への翻訳が行われているが、日本語版は現時点(2018年6月30日時点)で入手できていない。

欧州では、共通通商政策の分野において、EUレベルの機構についてだけでなく各加盟国に対しても拘束力を発揮するような国際協定を締結する場合でも、(各加盟国ではなく)EUに専属排他的な権限がある。こうした協定締結に向けては、交渉は欧州委員会が、決定は欧州理事会が行う。欧州議会からは事後承認を得なくてはならない。欧州委員会は、日本との協定はいわゆる「混合協定(mixed agreement)」ではないとして、各加盟国の承認を得る必要はないとしている。

日本とEUは、ともに世界貿易機関(WTO)に加盟している。WTOの加盟国は、原則としてある特定の貿易相手のみに有利な待遇を行わないこととなっている。この「無差別原則」はWTOの基本原則であり、具体的には内国民待遇、最恵国待遇の原則であるが、そこでは自由貿易協定(FTA)は例外扱いになっている。当時国どうしの貿易の一層の円滑化につながるとともに、第三国への障壁を設けることのない協定であれば、FTAの役割は正当化されうるとの考えをWTO加盟国は共有しているのだ。しかしFTAは、その性質上差別的な要素を内包している。協定に調印した当事者だけがより有利な条件の市場アクセスを享受できるからだ。それゆえEPAについても、いかにしてWTOとの整合性が確保されるかが問われる。

WTO加盟国は、一定の要件が満たされればFTAを締結してもよいことになっており、その要件は、モノの貿易については「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」第24条に、またサービス貿易については「サービスの貿易に関する一般協定(GATS)」第5条に定められている。FTAは、実質的に全ての貿易を対象として自由化を行い、締結前に比べ自由化を促進するものでなければならず、また、域外との貿易をより制限的にすることがあってはならないとなっている。

EPAもこの条件に従い、GATT、GATS、その他の多国間条約への言及が多数あり、それらの規定をEPAの一部として取り込んでいる。 

EPAの核心を成すのは、相手方製品の輸入に対し関税の縮小・撤廃を行うという日欧双方のコミットメントである。これにより自由貿易圏が生まれるのだ。EPAでは、物品貿易だけでなく、サービス貿易、投資の自由化、電子商取引についても大きな前進が見られた。貿易や投資の自由化と密接に関連する措置としては、商用での入国や一時的滞在に対する相互の要件緩和もある。

これら以外に、協定本文の各章で扱われている事項には、政府調達における入札機会の拡大や、地理的表示の保護(原産地名称保護)、コーポレート・ガバナンス、環境や社会の持続可能な発展・開発、市民社会の参加、農業分野の協力等があり、実に多様である。このことから、双方が、相互に優遇的扱いを約束するだけの貿易協定を大きく超えて、経済統合に向けた規定を多数設けようとしていることが見てとれる。当初の呼称「自由貿易協定」に代わり使用されるようになった「経済連携協定」という名称は、こうした趣旨に沿うものである。経済活動主体は、このEPAのいかなる規定からも直接的な私的権利を付与されるものではないが、法的枠組みが整備されることにより間接的な利益を得ることのできるものが圧倒的多数となるであろう。いずれかの国内の規則についてEPAとの齟齬がある場合、企業は担当官庁にその旨を通報し、政府間での改善を促すことができる。

EPAの発効とこれに合わせた国内法の整備に期待が高まるが、今後数年間にわたり、実際に期待どおりの結果が得られるのか、経済連携はどのように発展するのか、私たちは見定めていくことになる。 

3.投資保護に関する協定締結の見通し

EPAには、「投資保護」と「紛争解決手続き」に係る規定は含まれていないが、EU・日本双方ともに相互に安定し信頼できる投資環境を実現するため、これらは必要な要素である。今後、これらについて別途合意を得ることを目指し、引き続き協議が行われることになっている。

欧州司法裁判所の見解では、EUが締結する協定において、直接投資以外の外国投資(いわゆる「ポートフォリオ投資」等)に係る規定や、投資家と国との間の紛争解決(ISDS)手続に係る規定がある場合、それら規定についてEUは専属排他的な権限を有さないとされている。すなわち実際に投資保護等についての協定が締結されるのであれば、加盟各国の協力なしに、その実現を図ることは難しいということになる。

EU法において、投資家と国家の間の紛争処理は、どちらかといえばEUと各加盟国が権限を共有する「共有権限」の範囲に入る。各加盟国の裁判管轄における紛争を認めないような規定は、各加盟国がそれを望まない限りは採用できないであろう。

4.戦略的パートナーシップ協定(SPA)

戦略的パートナーシップ協定(SPA)には、EPA以外について日欧が利害関心を共有する多くの分野に関し、日欧がそれぞれの地域や国際社会で直面する共通の課題を解決するため、EPAを補う貢献が期待されている。例えば、サイバー犯罪、災害マネジメント、エネルギー安全保障、気候変動防止、高齢化社会、といった課題が挙げられる。これらの課題について双方はこれまでも協力を行ってきたが、SPA協定発効によりその協力に拘束力のある枠組みが設けられると同時に、戦略的方向性と全体的整合性が備わることになる。

SPAは、EUと日本が、ともに世界の平和と安定と豊かさを推し進め、開かれた国際システムと人権・民主主義・法の支配等共通の価値を実現していくにあたり、より強力に取組を進められるようにするものである。SPAは、国際機関等において方針の統一を図りやすくしたり、日欧間の問題解決を助ける効果をもつだろう。

EUと日本は、それぞれの内部調整を、EPAと同時に行われるSPA協定署名前にも完了する見通しだ。

すでに2017年7月、EUと日本は、「流動的で柔軟且つ透明性の高いグローバル液化天然ガス(LNG)市場の促進・確立に関する協力覚書」で合意している。意見・情報交換や共同活動を通じ、国際LNG市場の機能改善に向けたベストプラクティスの周知を図っていくという合意だ。EUと日本だけで世界の天然ガス需要の半分以上を占めているだけに、こうした協力によるエネルギー安全保障への貢献が期待される。 

5.日・欧州共同体相互承認協定(MRA)

EUと日本は、2002年に、特定の分野における適合性評価の結果を相互に承認するための協定を締結した(相互承認協定【MRA】)。当該分野においては、市場アクセスが改善され、適合性評価の相互承認実現によって貿易が促進される。相手国において、改めて適合性評価を経ることなく、製品を輸出できるのである。これにより、企業は輸出コストを大幅に削減することができる。

MRA協定は、通信機器(無線、有線)、電気製品、化学品GLP(優良試験所基準)、医薬品GMP(優良製造所基準)に関する分野別附属書によって構成されている。

この適合性評価手続は、EPA第7章において強制規格と任意規格と同様に「貿易の技術的障害」として、貿易の不必要な障害とならないように図るとされている。2016年4月22日、医薬品GMP関連のMRA改正のため外交公文の交換が行われたが、これはまだ発効していない。予定されているMRA拡大の迅速な実施が期待される。 

6.反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定

反競争的行為に係る協力に関する協定(独占禁止協力協定)は2003年8月9日に発効した。欧州としては、第三国における企業による(カルテル、談合、独占的地位の濫用、競争を著しく阻害する企業買収・合併等)競争制限的行為が、EU域内にも影響を及ぼしている状況に対処する協定ととらえている。域内への影響が認められる場合に、競争法の域外適用を行うという効果主義のもと、欧州法の適用は不可能ではないが、域外については捜査活動が実質実施することはできず、制裁実施にいたってはなおのこと困難である。さらに、関係企業は、同じ事案について複数の国の競争当局による審査を重複して受けることにより大きな損失をこうむりうる。しかもそれらの審査の結論は異なる内容になるかもしれないのである。 

それゆえ日EC独占禁止協力協定は、一方において原因行為が行われ、他方においてその影響が及ぶ場合、あるいは双方の競争当局が同じ事案について審査を行う場合、実質的な協力が行えるようにしたものである。双方の競争当局は、それぞれ相手方における手続や執行活動の実施について、実質的な協力を行うことができる。

EUと日本は、競争政策分野での協力の強化に向け、本協定の改正を検討しているということだ。審査の過程において一方の競争当局が入手した情報をもう一方に提供するという協力を改善していくことに主眼が置かれている模様である。これに関し、EPA第11.8条第2項において、双方の競争当局は、日EC独占禁止協力協定の枠組みにおける協力および調整を促進するため、情報の交換及び提供を行うことができる旨規定されている。私はこの点について、企業秘密や弁護士との連絡内容の秘匿性が引き続き保護されることが重要であると考えている。

EPA第11章では、このほか、双方の競争法・競争政策に共通して求められる内容を定めている。そこでは、双方とも、その競争法の適用は経済活動に従事する全ての民間企業・公的企業について行うと規定されている。競争原則の例外は、透明性が確保され、公共の利益を確保するため必要不可欠と思料される場合に限り、認められるとしている。また、競争法適用にあたっては、企業は、その国籍や所有の形態によって差別されてはならず、同様に国籍や所有の形態に拘わらず、公正な手続の実施が原則として守られなければならないとなっている。

7.原子力エネルギー

欧州原子力共同体(ユーラトム)と日本政府は、原子力エネルギー分野の協力に関し、複数の協定を結んできた。制御核融合協力協定(1989年)は、核融合分野の知見と技術能力を高めることに貢献してきた。2006年2月24日の、「原子力の平和的利用に関する協力のための協定」のもとでは、原子力分野における原子力の平和利用のための「日本国及びユーラトム又はその相互の間における」「取引、研究開発その他の活動を」「促進し容易にすることにつき」協力を進めている。さらに、核融合エネルギーに関するいわゆる「より広範な取組を通じた活動 (ブローダー・アプローチ)」においても双方は協力している。2007年2月5日の「日・欧州原子力共同体核融合エネルギー協定」は、「イーター(ITER)」計画支援の「より広範な取組」を通じ各種活動・事業を共同実施していくにあたっての具体的手続や個別事項を定め、これをもって、核融合エネルギー利用の早期実現を図ることを目的に締結された。 

8.税関相互支援協定(CMAA)

EUと日本は、税関分野において、2008年1月30日の「税関に係る事項における協力及び相互行政支援に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定」(税関相互支援協定【CMAA】)に基づき当局間の協力を行っている。この協力は、EPAにより強化・拡大される。EPAは、第4章において「税関と貿易の円滑化」について規定しており、関税法の運用改善や手続の簡素化を進める内容となっている。とりわけ、税関当局は申請者の照会に対し、事前教示を与えることとするとなっている。また、税関検査においては、リスクに低い物品についてはこれを迅速化することや、通関後の検査も可能とすることになった。 

9.科学技術協力

2009年11月30日の日EC(EU)科学技術協力協定は、日EU間の科学技術協力のための法的枠組みを強化した。とりわけ、協力活動における知的財産権や「開示されていない情報(非開示ノウハウ)」に関する規定が別途設けられている。

10.おわりに

21世紀に入って以降、EU加盟各国と日本の貿易・経済関係や多国間合意に基づく協力にとどまらず、日本との合意・協定のEUにとっての重要性が高まっている。日本は、2002年に初めての自由貿易協定(FTA)締結に踏み切ってから、FTA政策を主にアジアを中心として展開してきた。EUと日本は、戦略的に見たとき、それぞれロシアの西側と東側に位置するというつながりがあり、かつまた、平和、自由貿易、民主主義、法の支配といった基本的価値を共有している。 

EPAとSPAは、EUと日本がすでに協力を行なっている分野においてプラスの影響をもたらすだけではなく、従来の協力以外の多数の分野において互恵的協力の可能性を開くものである。EU域内市場と日本経済の規模の大きさだけをとってみても、EUと日本の間で、自由貿易と経済協力の新たな次元が開かれることであろう。 

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黒田法律事務所
外国法事務弁護士
アンドレアス・カイザー(Dr.jur. Andreas Kaiser)
office@andreaskaiser.com
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