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働き方・休み方改革

生産性向上が鍵 / ドイツを参考に

寄稿:メッツラー・アセットマネジメント株式会社 シニアアドバイザー/ DJW特別顧問 隅田貫

2018-01-08, 10:00

新年おめでとうございます。2018年はどのような年になるでしょうか。先行きの見通しが益々難しい時代ですね。中にあって、唯一明確とも言えることは、日本の人口は当面数十年に渡り減少するということです。国立社会保障・人口問題研究所が昨年発表したところによれば、2065年に8千万人台への人口減少が見込まれています。こうした状況において生産性向上は火急の課題です。加えて過労による弊害も耳目を集め、働き方・休み方という言葉がかつてないほど人口に膾炙しています。経済活動の生産性向上及び個人の生活充実度向上という両面から働き方改革はこれからの日本にとって待ったなしの課題です。

因みにドイツは、目下の時点で人口が8千万人台です。ドイツも日本も同じく戦後焦土と化した国土から奇跡の経済復興を遂げ、強い自国通貨の中で輸出製品・サービスに工夫を重ね、世界で産業立国・経済立国としての評価を確立しました。他方で、働く人にとっての環境が現状両国では際立って違います。日本と同じく少子高齢化の課題を抱えながら、働く人々にとって残業は決して常識ではなく、年間6週間もの休暇が当然となっています。それにもかかわらず、一人当たりGDPが日本より高い。働き方改革に関心が高まる日本にとり、ドイツを参考にすることは決して無駄ではないと思います。

私は通算で約20年間にわたりドイツで働いて参りました。前半は日本からの企業派遣社員として、後半はドイツの老舗会社の本社で唯一の日本人として。特にドイツにおいてその地場企業で働いたことで、ドイツ人の働き方についてより多くの実感を得ました。それらの仕事体験を礎に以下若干の私見を申し述べます。 


1. 意識

日本人は自律にすぐれ、ドイツ人は自立を大切にしていると感じます。ドイツではアサインメントが明確であるので、自分の仕事に責任を持ち、帰宅時に同僚に気兼ねすることはまずありません。ドイツと日本とで決定的に違うことは無用の同調圧力がドイツでは全く感じられなかったということです。自分の仕事が終わったにも拘わらず、周囲の上司・同僚に気兼ねして帰宅をためらうといった経験は、日本では決して珍しいことではないと思います。 

勿論私の世代(いわゆるバブル世代)から比べれば、昨今の日本はこの点互いへの無用の気遣いが減りつつあることは事実です。とは申せ、やはり、明確なアサインメントの下に各自が責任もって自由な働き方を貫くという状況に至るにはいま暫く時間がかかりそうです。日本人の自律は世界に誇れる美点ですが、それに自立が加われば、きっと個人の幸福感もさらに新たになるのではないでしょうか。 

ドイツでは、いわゆる「ほう(報告)・れん(連絡)・そう(相談)」がとても限定的であったことも印象的でした。社外へメールを発信する際に上司へ写しを入れることもルールにありません。上司の不在時にも、「上司に確認の上返答……」ではなく、上司不在ゆえに任された範囲であれば、自分で率先して決めていくのが当然でした。会議の数も限定的です。

 

2. コミュニケーション

ドイツでは、各人のアサインメントが決められているとは申せ、いや、だからこそ、例えば部署を隔てた対話、会話を重視しているように見受けます。フロントとバックなど違う部署のヘッド同士が誘い合い、相対でランチを共にしている姿を何度も見かけました。

挨拶も大切なコミュニケ―ションです。ドイツの会社で働いている時は、朝であろうが、昼であろうが、廊下で同僚と合う度に、皆気軽に、気さくに挨拶していました。そこに立場の違い(例えば上司と部下など)は一切感じられません。とてもフラットな雰囲気の中で皆が笑顔で挨拶を交わしています。小さなことではありますが、こうした挨拶は互いの意思疎通を円滑にする最初の一歩としてとても重要ですね。

円滑な社内コミュニケーションは、これにとどまりません。日本では業後の「飲みニュケーション」が時に大切な役割を果たします。ドイツではまずお目にかかりません。業後は家族と過ごす大切な時間と位置付けている人が多いためでしょうか。 

ただ、私の当時の職場では時折、例えば金曜日の夕刻17時以降に誰ともなく、ワインを持ち寄って職場での「チョイ飲み」が始まることがありました。誰でも三々五々集まって、勝手な時間で帰宅していきます。一時間ほどでお開き。とても効率的な「飲み会」ですね。

 
3. 時間の管理

ドイツでは、スタッフは皆、端から5時に退社するつもりで集中して仕事に取り組んでいるため、無駄なことを極力省く一方で、仕事の優先順位についての見極めを徹底しているようです。なぜ、今、この仕事をすべきか?という点を常に明確に考えている気がしました。家族との時間、自分の時間は通常もっとも高い優先順位です。ワークライフバランスという言葉を日本で良く聞きますが、ドイツでは滅多に聞いたことはありません。強いて申せば、ライフ・ワークバランスであり、敢えて言葉にする必要もないくらい常識になっているように思えました。

 
4. チームワーク

チームワークの重要性については洋の東西を問いません。ただ、日本は戦う前にチームの和(輪)をしっかり確認することに重きを置く一方で、ドイツ(だけではないと存じますが)では、ある意味、勝って初めてチームの和ができるという違いを感じました。どちらが優れているという議論ではありませんが、一人ひとりのプロ意識の結果としてできるチームワークの存在は、特にプロスポーツの世界に顕著に見られたように思えます。こうしたチームビルディングにあたっては、リーダーは決して「利害調整型」ではなく「戦略を自ら提示して、リスクを取ってチームを導く、率先垂範型」が求められます。

 
5. 働く環境

ドイツの会社では日本以上に多様な働き方に接しました。事情で週4日しか働かない社員、自宅で仕事に取り組む社員、様々です。小さな子どもが会社の廊下を小走りに駆ける姿もありましたが、決して各自の仕事の妨げになることはなく、また周囲の同僚も温かく迎えていました。こうした家族的な雰囲気は企業の規模や形態にもよるのでしょうが、私には優れた企業文化の賜物と感じられました。会社が必要としている人材であれば、極力柔軟な働き方を認めていくという文化であり、そこに無用の同調圧力は微塵も見られません。多様性の受容と自主性の尊重が働く人にとって大きなモチベーションになるということを改めて実感しました。

 
6. 日本でも直ちにできる試み

ドイツ人が日本人より優れているのでしょうか?私は決して思いません。むしろ、外国で仕事をする中で、日本人の優秀さ、日本人の慣習の重要性を改めて認識することは少なくありませんでした。実際、上記のことは日本(人)でもその気になれば、今日からでもできることばかりです。要は、働く場が多様性を大いに受容し、自主性を最大限尊重する一方で、働く個人個人が自立した生き方をしていけば、生産性も向上し、そして個人の人生が充実したものになっていくのだと、そう確信してやみません。 

 

※本テーマに関心をお持ちの方は、隅田氏の著書『仕事の「生産性」はドイツ人に学べ 「効率」が上がる、「休日」が増える』(KADOKAWA)もあわせてご覧ください。

メッツラー・アセットマネジメント株式会社 シニアアドバイザー/ DJW特別顧問
隅田貫
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