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年頭所感(時代の転換点:Zeitenwende)

DJW副会長ならびに横浜日独協会会長成川哲夫氏による同会会報「Der Hafen」寄稿記事

Hinweis unseres Mitglieds Japanisch-Deutsche Gesellschaft Yokohama (JDGY) und des DJW-Vorstands

Do 16.02.2023, 08:00 Uhr

DJW副理事長であり、DJW会員横浜日独協会(JDGY)会長も務める成川哲夫氏が、同会会誌「Der Hafen」本年初号にてロシア・ウクライナ情勢と日独の課題と展望についての見解を投稿しています。日独経済・ビジネス関係強化と促進に長年にわたり尽力されている成川氏の記事全文を以下に掲載しておりますので、是非ご一読くださいませ。

 

昨年2022年は新型コロナウィルスの感染状況が落ち着き、ウィズコロナによって世界の社会経済活動がコロナ以前に復することが期待された年であった。しかしながら、そうした期待は2月24日のロシアのウクライナ侵攻によって裏切られることとなった。ロシアのウクライナ侵攻は、これまでの世界秩序を大きく変えるリスクを内包しており、我々は、今正に時代の転換点に立っているのかもしれない。日本においても、そしてドイツにおいても、戦後長らく国民の間に浸透してきた平和と自由、民主主義、法の支配といった国家理念が今ほど揺さぶられ、危機に瀕していることはないと言えよう。

ドイツは、戦後日本と同様の国家理念の上に経済発展と繁栄を築いて来た。ロシアのウクライナ侵攻は、核大国ロシアと陸続きで国境を接するEUの中核として、またロシアに過大なエネルギー依存を続けてきたドイツにとって、その衝撃と危機感は日本の比ではない。こうした事態に直面したドイツの安全保障政策の劇的な方向転換もまた衝撃的と言える。2022年2月27日、ドイツのショルツ首相は連邦議会で演説を行ない、それまでの政策を180度転換し、ロシアに対する厳しい経済制裁、防衛費の増額、ロシアへのエネルギー依存からの脱却などに踏み切ることを表明した。印象的なのは演説のなかで「時代の転換点(Zeitenwende)」という言葉が繰り返し出てくることである。ウクライナの戦争が他のヨーロッパ諸国に波及するのを防ぐためにはNATOの結束が求められるが、そのためにドイツはリトアニア等のNATOの東方の防衛強化へのさらなる貢献に努めるとした。ヨーロッパの平和と自由、民主主義を守るために連邦軍を強化し、2022年に1000億ユーロ、以後GDPの2%以上を防衛費として投じるとしている。この政策転換に関しては、現在のところCDU/CSUを含む主要政党も世論も、この決断を概ね支持している。しかしながら、ドイツの外交・安全保障政策が実際にどのくらい転換するのかは未だ不透明と言える。ロシアの戦争に対する現状の広範なコンセンサスも、経済制裁がドイツ国民に大きな「痛み」をもたらしたとき、それに耐えうる論理が求められるだろう。SPDは、もともとロシアとの経済交流を通した和解を重視してきた政党である。ドイツは本当に変わっていけるのか。世界が注目している。

翻って日本の状況はどうだろうか。ケルン経済研究所によれば、ドイツは2020年に、石油34%、天然ガス55%、石炭45%がロシアからの輸入だった。特に、天然ガスは国内需要の9割以上を輸入に頼り、加えて輸入の半分以上をロシアに依存していたことになる。一方日本は、2021年に輸入した化石燃料のうちロシアの割合は原油3.6 LNGで8.8等で、原油は中東からの輸入が9割と中東依存度が際立つ。日本はエネルギーのロシア依存率は低いが、我が国のエネルギー自給率は12.1(2019年度資源エネルギー庁)と低く、同じ非資源国ドイツの34.6(2019年)を大幅に下回る。加えて食料自給率も主な先進国が比較的高い中で、日本は38%(2019年度、カロリーベース:農水省)と低い(ドイツ95%、2019年)。今後、世界市場において、エネルギー、食料価格がさらに上昇すれば、日本はその影響を最も受ける国の1つである。価格高騰が時差を伴って国民生活へ大きな影響を与えることから免れることはできない。

日本のコロナ規制の緩和に伴い、昨年の秋以降ドイツから政官財の人々の日本訪問ラッシュが続いている。ドイツは、ロシアのウクライナ侵攻以降、同じ価値観を有する技術重視の日本に急速に接近しており、日本への期待は大きいように見える。しかし、日本側にそれを受け止める自覚と体制ができているかは疑問である。

11月16-17日とドイツ側、日本側双方政官財のメンバーが集まって日独フォーラムが開催された。その第3セッションは、「エネルギー戦略の再策定と日独協力の可能性『ロシア依存脱却』と『脱炭素化』の両立に向けて」であり、日本側スピーカーは、保坂資源エネルギー庁長官、ドイツ側のスピーカーは、日独エネルギー変革協議会ドイツ側議長のペーター・ヘンニッケ氏であった。日本側の極めて漸進的かつ、現実的アプローチに対して、ドイツ側は、未来を見据えた、長期的かつ包括的エネルギー戦略をまず打ち立てた上で、個別のアプローチに入るという極めてインプレッシブなものであった。

歴史的な深いつながりを持ちながら、日独両国はそれぞれの課題に専念する中で、日独のパートナーシップのあり方について真剣に話し合う機会が相対的に少なく、両国の関係は、その潜在性に比べて希薄であると感じている関係者は少なくない。ロシアのウクライナ侵攻を契機とした時代の転換点に立つ今こそ、両国にとって、政府、企業を中心とした連携の必要性が求められている時はないだろう。そのためには政官財の人的交流の促進と技術面での協力の実を継続的に挙げていく必要があるだろう。

 

本記事が掲載されている横浜日独協会の会報「Der Hafen」第65号はこちらからご覧いただけます。

DJW副理事長・横浜日独協会(JDGY)会長 成川哲夫氏 DJW副理事長・横浜日独協会(JDGY)会長 成川哲夫氏

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