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日独経済関係の過去と未来

経済同友会欧州ロシア委員会副委員長 / DJW副理事長 成川哲夫

2019年1月30日開催「4th German-Japanese Business Dialogue」基調講演より

Fr 14.06.2019, 09:45 Uhr

私は、経済同友会の欧州ロシア委員会の副委員長の成川と申します。本日第4回日独ビジネス対話に於きまして、お話をさせていただく機会を得ましたことを心より感謝申し上げます。経済同友会は日本の3つの経済団体の一つですが、企業経営者が個人として参加し、自由社会における経済/社会の牽引役であるという自覚の下に、1企業や特定業種の利害を超えて、国内外の諸問題について議論し、政策提言を行うところが、最大の特色です。私は三菱地所の取締役等を務めながら、経済同友会で活動を行っております。また日独産業協会(Deutsch-Japanischer Wirtschaftskreis=DJW)の副理事長としても活動しております。DJWは、今年、日本にRepresentative Office を設立する予定で、これにより、さらに日本企業とドイツ企業間の交流と連携をサポートしていきたいと考えております。

私がドイツと関わりを持ちましたのは、昔日本興業銀行(The Industrial Bank of Japan)に勤務していました時、12年間のドイツ滞在を含めて、長らくドイツ・東欧・ロシアを担当したことによるものです。ドイツと日本両国は共に戦後の経済復興を果たし,その後は冷戦時代を通して,G7先進国サミットに象徴される西側同盟国の一員として、国際社会の中で共に歩んできました。しかしながら、歴史的な深いつながりを持ちながら、両国はそれぞれの課題に専念する中で,日独のパートナーシップのあり方について真剣に話し合う機会が相対的に少なく,両国の関係は、その潜在性に比べて希薄であると感じているのは、私だけではないと思います。

私の経験では、ドイツと日本の関係に1つの大きなチャンスとも言うべき時期がありました。それは1989年のベルリンの壁の崩壊と1990年のドイツ統一です。長い間金融サイドから西ドイツと東ドイツの両方に関わってきましたが、正直このように速いスピードで、ドイツの統合が行われることは全く予想していませんでした。ドイツ統合から30年、様々な困難を乗り越え、EUの中核としての統一ドイツの地位が不動のものとなったことに、ドイツ国民全体の意志と忍耐と努力を感ぜずにはいられません。

東西ドイツが統一したとき、私はドイツに勤務しており、最初に考えたことは、日本企業がドイツ企業と連携することによって、旧東ドイツ企業の買収や、あるいは旧東独地域での復興投資が拡大する統一ドイツへの投資のチャンスがあるのではないか、加えて、ドイツ企業との連携は、当時大きな変化を遂げつつあった東欧、ロシアマーケットへのアプローチの橋頭保となるのではないかということでした。当時私が所属していたドイツ興銀(Industriebank von Japan Deutchland)はドイチェバンクとの合弁銀行であり、ドイチェバンクとの意見交換の中で、そうした意識は高かったわけであります。

しかしながら、我々の努力にも関わらず、そうした動きは大きなものとはなりませんでした。その理由として、日本企業には、欧州に進出するなら、EUの中でも税務上等の規制が比較的緩やかなオランダ等に100%出資の形で欧州本社を置き、そこから、投資への多くのインセンティブを提供していたチェコやハンガリー等に生産拠点を作るという考えが主流であったことが上げられると思います。当時多くの日本企業とコンタクトをしましたが、旧東ドイツの実態が十分に分らず、日本企業はすべからく様子見であったと記憶しています。西ドイツ企業は別として、日本企業と他の国の企業との違いは何であったのか。さらに旧西ドイツ企業との連携や合弁による旧東ドイツや東欧・ロシアへの進出という発想はなぜ日本企業サイドになかったのか。私の意見では、当時の日本企業が、会社の経営の在り方として、例えば合弁企業を通して経営の一端を外国人に委ねるという発想が乏しかったこと、カルチャーの違いを乗り越えて更なるグローバル企業を志向しようとする発想と意志がさほど強くなかった、すなわち自己完結型経営への拘りがあったと思います(今でも依然としてこの傾向がある)。あれから30年、日本はバブル経済の破綻以降、10年前のリーマンショックの傷は比較的浅かったものの、バブル崩壊後の日本経済において、日本企業は、戦後の高度成長時代のようなグローバルな展開への活力とチャレンジ精神を失いつつあり、その状況から未だに脱し切れずにいます。

国内においては、日本が戦後一貫して進め、そして今や限界になりつつある成長モデルは、東京を経済の中心として、そこに経済資源を集めて効率を上げ、日本経済全体を底上げしようとするやり方でした。しかしそうした方針は、中央と地方の格差を増大させるとともに、新興国の追い上げが東京すら上回る勢いを持つことで、日本経済に開塞感をもたらしつつあります。少子高齢化等が急速に進み、経済投入資源が縮小する日本が、今後も着実な成長を実現するには、すでに生産性の高い部門のさらなる効率化を図るだけではなく、非効率な部門の生産性を適切な投資によって引き上げる努力をすべきです。そして、今回政府がようやく舵を切ろうとしている外国人労働者の正式な受け入れ等によって内なるグローバル化を進め、一方で中堅企業を含めた日本企業の更なる海外展開とグローバル化を進めて行く必要があります。そのためには、戦後のドイツ企業の経験から、日本企業は学ぶべきことが多いのではないでしょうか。

ドイツ統一を契機としては、ドイツ企業と日本企業間の連携の進展は、さほど大きな成果をあげませんでした。そして、その後ドイツは統一後の復興に,また,日本もバブル経済の崩壊後のデフレ経済からの脱却という,それぞれの課題に取り組まざるをえませんでした。近年においても,ドイツがヨーロッパの債務危機への対応、更には英国のEUからの離脱という大きな問題に直面する一方で,日本もまた東日本大震災からの復興という課題に直面することとなりました。先ほど申し上げましたように、両国がそれぞれの課題に専念する中で,日独のパートナーシップのあり方について話し合う機会は相対的に少なかったのです。

しかし,今回、日本とEUは、自由貿易を守ろうという固い意思の下、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が、ついに合意され、いよいよこの2月1日に発効日を迎えることとなりました。(また、SPAの一定の規定も、2月1日から暫定的に適用されると聞いています。)これにより、世界の国内総生産(GDP)の約3割を占める自由貿易圏が誕生します。日欧で協調し、「自国優先」の通商政策を打ち出す米国への防波堤となることが期待されているのです。これに加えて、「日-EUの個人データ移転に係る相互認証」も、欧州委員会が昨年12月に、EDPB(欧州データ保護会議)において、日本の十分性認定案を歓迎する意見を採択、欧州委員会の手続きを経て、この1月23日に発効しました。私は政府の個人情報保護委員会(Personal Information Protection Commision)の専門委員(Commissioner for International Cooperation)も兼務していますが、経済のデジタル化で浮上するデータ寡占や個人情報保護の分野についても、日EUは連携してルールづくりを目指すことができると思います。広範な関税の引き下げと撤廃は日EU間の貿易に恩恵をもたらすだけではありません。EU(特にドイツ)が日本市場を、日本がEU市場を意識し、アプローチが積極化するという効果を生み出すと思います。私が期待するのは、日本企業にとって、EU企業、特にドイツ企業が戦略的パートナーとして意識されることです。

こうした状況を踏まえ、今後に期待されることについて何点か申し上げたいと思います。一点目は、中小企業の分野での連携です。日本とドイツは中小企業が企業活動の中核をなしているという点で共通していますが、その実態は大きく異なっています。私ども経済同友会は、昨年の3月、ドイツミッションを派遣し、ドイツの中堅企業等を訪問し、アーヘン工科大学での産学連携の状況も視察しました。ドイツの中小企業が自立的で、付加価値の高い製品に特化し、自ら積極的に海外展開を進めているのに対し、日本の中小企業は、自立性に欠け、基本的には大企業の下請け的な企業が多と言えます。海外展開においても自らの展開がなかなか難しいため、大企業の後に付いて行くという傾向が強いのです。これでは、高い技術力やノウハウを持っているとしても、日本の中小企業の自立と持続的成長は難しい。今後ドイツ企業との連携を強化することができれば、EUや日本のマーケットにおいて、そしてさらにはEUを超えた第三国での共同事業を展望できるのではないでしょうか。また先月の12月には、同じく経済同友会の欧州ミッションでアイルランドとロシアを訪問しました。ロシアに行って驚いたのは、ロシアにはドイツの中堅企業が相当数進出しており、一方で日本の企業の進出がほとんど見られないということです。ロシアは、西側諸国から経済制裁を受けているという問題点はありますが、資源があり人口も多いロシア市場において、日本とドイツ企業の連携は可能なのではないかと考えています。

二点目は、スタートアップ企業の連携です。今ベルリンには、およそ17万社のスタートアップが存在し、65万人の雇用と、これまでの投資額は39億ユーロに及び、ヨーロッパの一大拠点となりつつあります。経済振興公社によるスタートアップ支援の強化や、産学連携の取り組みなどが活発に行われており、ベルリンを拠点として日本とドイツのスタートアップ企業の連携はできないだろうか、ということを考えています。

第三点目は、日本とドイツとの間の人的交流をもっと劇的に増やす必要があるということです。日本人にとって、ドイツは非常に好感を持つ国ですが、人的交流という点については、例えば日本からドイツへの留学分野は、文化芸術部門に偏っています。一例としては、DAAD(ドイツ学術交流会―Der Deutsche Akademische Austauschdienst)の留学生を見ても、そのことは一目瞭然です。文化的分野での交流は重要です。しかしながら、実務的分野での交流はもっと重要です。日独間で、政・官・財、特に経済界の将来有望な人材の交流をもっと進める必要があります。今回の日本―EU間のEPA の締結は、そのための良いきっかけと言えるのではないでしょうか。交流のための新しい仕組み作りを、是非両国政府サイドでも考えていただきたいと思います。そのことが、まさしくグローバル・パートナーとしての日独関係の基礎となると思います。そのような交流と相互理解を欠いて,真のパートナーシップを築くことはできないと考えます。

話を締めくくるに当たり,改めて,日本がグローバル・パートナーであるドイツと更なる協力を深めていく必要性を強調したいと思います。そのためには,これまで両国の交流の進展に大きな役割を果たされてきた、今日お集りの皆様の協力が欠かせません。これからも,日本やドイツに対する認識,あるいは共通する課題への考え方,さらには国際社会との連携のあり方などについて,企業活動の現場から様々な提案や知恵が生まれ,具体的な行動へと結びついていくことが期待されます。本日の会合が,日独関係の中にあって大きな意義をもち,新たな歴史を刻む第一歩になるものと確信し、私のスピーチとさせて頂きます。ご清聴有り難うございました。

4th German-Japanese Business Dialogue 2019 4th German-Japanese Business Dialogue 2019
Tetsuo Narukawa
Vice-Chairman of Europe/Russia-Japan Relations Committee of Japan Association of Corporate Executives 
Stellvertretender Vorsitzender des DJW
Tetsuo Narukawa
Vice-Chairman of Europe/Russia-Japan Relations Committee of Japan Association of Corporate Executives
Stellvertretender Vorsitzender des DJW

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